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6
家に行くと夏生は、いつものようにキスで迎えられる代わりに、玄関先で抱きしめられた。ドアを開けた瞬間の早業で、夏生より背の高い高岡がのしかかるように力を込めたので、よろけて膝をつきそうになった。
高岡が慌てて夏生を抱き止めると。そこから先はキスの嵐で、ベロンベロンに翻弄された。今までの、恐る恐る進む高岡とは別人のようで、何が起きてるのかと夏生は驚いてしまった。
舌を奪い取られ、絡めるだけ絡めて唾液を交換していると頭が真っ白になっていった。高岡の舌は奔放で、口蓋をきつくなぞられると背筋がゾクッとなった。
向けられる感情の波が激しくて溺れそうになる。
口唇だけでなく、最初夏生を抱きしめた腕は上半身中を駆け回り、羽織っていたニットジャケットをくちゃくちゃにしながら、夏生の身体を感じようと動いていた。
なっちゃん、と夏生を呼ぶ声が何度か聞こえた。切羽詰まったような切ない声で、求められているのが分かった。胸の奥から多幸感が溢れ出て息苦しいくらいだった。
「待ちましたか」
「待ったよ。むっちゃ待った。でも、こっちこそ待たせたかも」
「僕は全然待たされたと思ってないです」
嘯いた言葉ではあったが、夏生の本音だ。高岡から動くまで待つ気でいたし、気にしないようにしていた。信じて待てばいい確信があった。
「まず言わせて」
高岡は、夏生の手を取ってリビングまで連れていくと、夏生だけをソファに座らせ、自分はその前で正座した。
居住まいを正され真剣な眼差しでじっと見上げられる。夏生の膝に手を置いたはいいが、一瞬出かかった言葉が喉に閊えてしまいむせている姿を見ると、何だか可笑しくなってきた。
僕、この人に愛されてるな。
「佐倉夏生さん」
「はい」
「好きです」
「はい」
「こんなに好きになって、こんなに欲しいと思った人はいません」
「はい」
「あなたは俺の全てです。大好きです」
「はい、僕も大好きです」
言い終わった瞬間、二人で吹き出した。真面目が過ぎて、堪えきれなくなってしまったみたいだ。高岡も夏生の膝の間に頭を埋め、肩を震わして笑ってる。笑いすぎて涙が出てしまい指で拭っている。
「なんで、緊張しているんですか」
「ま、いろいろあって」
「僕の答えは知ってるのに」
「俺にも心の傷はあるんだよ」
そういうと、高岡は夏生の頬に口づけた。
「山田さんたちの噂話で知ってるかもしれないけど、俺、婚約破棄したことがあるんだよ」
「え、そうなんですか」
「あ、知らなかった? ま、いいや。遠距離恋愛してた相手にドロドロの二股不倫されててね。向こうは、親含めて一応土下座してきたけどどうしても許せなくて。相手の親も薄々知っていて誤魔化してたのも知って」
高岡は、セリフでも読むようにすらすらと話した。ドラマみたいな出来事が、彼の身に現実に起きたんだろうに。
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