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「もっと許せなかったのが、うちの親でさ。体面があるから結婚しろって強制しようとしたから、縁を切った。相手は同窓会で再会した元クラスメートで実家の町の名家のお嬢さん。自慢して回った後だったらしい。バカだよな。見栄っ張り」
夏生の髪を撫でながら。撫でられて気持ち良かった。
「彼女のことは結構好きだったんだよ。いい子だと思ってた。でも、俺に見せている顔は全部いいとこのお嬢さん風の演技だったのもわかって、もういいやって」
「僕に嘘をつかせたくないとか言ってたのは、もしかして」
「そう。そういうのはもううんざりした」
「サトシさん、話し始めたら徹底的に言いますね」
「なっちゃんには知ってほしいことが沢山あるよ。君は余分なこと言わないから、俺のことをどう思ってるかわからんけど、でも言う。言わせて」
「はい」
「ウチはテレビの無い家で、ゲーム機もマンガも買ってもらえなくてね。貧乏だからではなく教育上の理由だそうで、友だちと遊べなくて結構辛かった。両親ともに趣味のない人で自分の価値観をとにかく押し付けるんだよ。大人になって都会で就職しても、相変わらず干渉してくるから、ふらふら煙に巻いてたつもりだったんだけどね。結婚絡みでとうとう拗れた」
「そうだったんですね」
「いろいろな軛から離れて、やっとひとりで出直しだと思ってたら、このご時世になっちゃって、訳がわからずあくせく働いていたら、なっちゃんが俺の前に現れた」
髪を撫でる手が止まった。
目の前の顔に夏生の方から何度目かのキスをしてみると「なっちゃんの全部が欲しい」と言われた。
もとからそうなる気でここに来たのだが、いざとなると気恥ずかしさと男同士であることの不安がよぎる。それは高岡も同じなようで、夏生の服を脱がせようか戸惑うっているのが、在々と分かった。
「先生、僕の出した宿題はしてきてくれましたか」
夏生は訊いてみた。
「どの分?」
「男同士のやり方の研究」
「したよ。インターネット先生に詳しく習った」
「僕もです。どういうことを習いましたか」
そこまで言うと、高岡は顔をくしゃくしゃにして夏生にしがみつき、シャツの中に手を入れてきた。「なっちゃん、ありがとう。愛してる」の言葉が耳の奥に届いた。
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