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「なっちゃんに看病してもらった夜の事を覚えてる?」
「はい」
「なっちゃんが椅子に座って雑誌を読んでただろ。あの時、台所の光に浮かぶなっちゃんを見ていて、ああなんてきれいな子なんだって思ったんだ。熱に浮かされて、だるくて辛い時に、傍で一緒にいてくれたのは君で、その時、この子が欲しいって初めて本気で思った」
後ろから耳たぶに口づけされた。ほんのささやかなキスで、だけど愛されていると思うには充分な熱さだった。
「ただ、もうその後がグタグタで、相手は男だし、どうしようって超悩んでさ」
「そんなふうには見えなかったですよ。いきなりなっちゃん呼びされたし」
「恐恐とチキンレースしてたつもり。結婚してって言ったら、拒否られたりしたから。」
「あれ、本気だったんですか」
「お恥ずかしながら、既にあの頃はメロメロした。看病してくれたのが誕生日だったって知ったときは、もうどうしてくれようかと」
耳元で囁かれる言葉はとても甘くて、夏生の気分は上々だった。夏生も同じことを思っていた。不安と怖れと、それと同じくらいの愛しさ。
高岡に大きく凭れ掛かり背中を密着させてみる。夏生も小柄な方ではないが、それよりも全部が少しずつ大きい彼の身体が好きだ。
駅のこちらと向こう側で行き来しながら、僕たちはこれからも暮らしていくんだと思う。自分の横に触れ合える相手がいるのは幸せだ。隣りにいるのが高岡なのが嬉しい。触れ合うことが否定された日常は、自分たちの間では終わるんだ。
明日の夜は高岡と一緒に秋祭りに行きたい。あとで誘ってみよう。
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