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 2人で話しをするでもなく淡々と作業をするのは結構気持ちのいいもので、夏生は嫌いじゃなかった。もちろんログイン作業は細かくて面倒な作業だが、時々動作不良のパソコンがあれば、先生と二人ワタワタしながら対応をしたりする程度のハプニングもあって、実は結構楽しかったりする。 高岡先生は、文系の人なのでそれほどパソコンやプログラミングに詳しい訳でもなく、プライベートでもネットやスマホを駆使するような生活をしていないらしい。ケータイからスマホに変えたのも割と最近だったそうだ。 「佐倉さんは経済学部だったっけ」 「そうです」 「経済の授業って、僕たちの頃より数学が重視されるって訊いたんだけど」 「そうですね。統計学とか授業でバリバリにありますよ。でも、僕は全然数学が得意じゃないのでかなり苦戦してます」 「パソコンはすごく得意そう」 「これは僕の趣味だから。小学校のときから家にあるパソコンをいじったりしていたし」 「例のデジタルネイティブって世代かな。君はゲームとかもするの?」 「よくわからないけど。ただ、ゲームはあまり得意じゃないんです。どちらかというとハードをいじったり、簡単なプログラミングをしたりする方が好きですね」 「いろいろあるんだな」 お互いに手を動かしながら、話を続けている。先生は黒板を書き終わって、今度は教材の準備を始めた。 「オタクっぽくもないよね」 「広く浅くだからオタクじゃないかも」  話すテンポが合うのか、それとも先生が上手いのか。夏生はそれほど社交的な方ではないと自覚しているが、なぜだかこの人とだと話が広がっている。彼のよく響くように訓練された声は耳に優しい。 「僕が今30歳だろ。佐倉さんと10年差があるだけで、全然時代が違うな」 「そう感じますか」 「君の手際の良さを見てると、すごくおじさんな気分になる」 「なに比べてるんですか」 「それと、教えてほしいんだけど」 「クラスの子たちが最近言うんだよ、『草生える』って。あれ何?知ってる?」 「そんなことを小学生が言うんですか」 「割と言うよ」 「ネットスラングですよ。Wって笑っているっていう意味で、それがいっぱい並んでいる状態を草に見立てて、笑えるー、みたいに使ってるんだと思います」 「そういうこと!」 「小5で使うんですね」 「佐倉さんも使ってる?」 「ときどき」 「あー、10歳差が大きすぎる」  にへっと笑いながら突っ伏した先生を見ていると、こんなことを言っては失礼に当たると思うけど、すごくかわいいように感じてしまう。先生と同世代になる実家の兄とも全く違う。何だか不思議な感じだと思う。
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