4.移り変わっていく景色

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「神様! ここで勉強していってもいい?」 「令和の娘が青空教室で勉強するって、随分とまあ時代錯誤っつーか」 「あ、この古文わからないんだ。神様わかる?」 「話聞けよ……まいいか。一応見せてみろ。ただ、教科書として正解かは知らないからな?」  私は結局、悩みが解決した後も神様にだらだら会いに来るようになっていた。 神様と一緒にお菓子を食べて、ちょっとしたくだらない話をする時間が幸せだった。 「この辺りは昔は結構栄えてたんだぞ。田んぼはどこまでも広く続いてて、近くの海には貿易の船がたくさん来てて」 「そっか。田んぼがいっぱいってことは豊かだったってことなのね」 「そりゃそうさ。特にほら、ここから景色を見てみろ……田んぼの形がぐにゃぐにゃだろ? あの形は全部、千年以上昔から変わらない形なんだ」  神様は景色を見ながら話してくれる。桜ノ端がもっと違う景色だった頃の思い出を。 「赤子が生まれるたびに、この場所に連れてこられていた時代もあったな。どうか無事に大人になりますように、ってな。……その時の神通力でも赤子の生死は変えられなかったから、せめて全部の子供の顔と命の形は覚えていようと思ったものさ」 「神様、本当に全員のことを覚えているの?」 「ああ。目を閉じれば、瞼の裏に、地平線まで続く広い墓地がある。一つ一つに名前と、どんな奴だったのかが刻まれているーーイメージで言うと、そんな感じかな」 「よくわかんない」 「まあそうだよな」  神様は普通のお兄さんのような人なのに、時々ひどく遠い存在のように感じた。  それを口に出して言えば、神様は私の髪をくしゃくしゃに撫でて笑う。 「本当、ここまで馴れ馴れしく話しかけてくる人間なんて初めてだよ」 「じゃあ私が死んでも、神様は覚えててくれる?」 「ばか。……遥花は特別だよ」 「特別って?」  神様は答えずに、次は私の髪を両手でぐしゃぐしゃする。 「ちょっと、誤魔化さないでよー!」  私は悲鳴をあげて、笑った。  そんな風に毎週通っている廃神社にも少しずつ変化が訪れていた。  参道の茂みに捨てられていた、いろんな不法投棄のゴミが減っている。ボロボロの本殿や境内の荒れ具合は変わらないけれど、なんだか木々に手を加えられている気がする。最低限の枝葉の伐採がされているような。 「最近もしかして、掃除されてるの? 神様」 「あー……うん」  私の質問に神様は曖昧に答える。 「このまままた神様として祀られるようになるといいね」 「そうだな」  神様はこの時、その一言だけで話題を変えてきた。  ーー気づけば、よかったんだ。
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