5.最後の夏祭り

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5.最後の夏祭り

 夜。  夕食とお風呂を済ませ、いつものように勉強をしていると、遠くから賑わいだ音が聞こえるのに気づく。窓の外、学校の近くが明るく光っている。確かあそこは天神様。 「あ、……今日、夏祭りだったっけ」  夏祭りなんてすっかり忘れていた。受験生として正しいといえば正しいけど。毎年お盆明けに行われる桜ノ端の夏祭りは、市町村合併に伴って今年で終わり。  来年からは隣の大きな市で行われている音楽フェスに合わせて新しい祭りになるようだ。 「街の名前も地名も、なんでも変わっちゃうんだなあ……」  色んなものが新しくなっていくのは、寂しい気持ちもあるけどわくわくする。田んぼと空き家ばかりだったこの街は、女子高生として生きるには少し退屈だったから。ちょっとした服を買うだけでも、お父さんに車を出してもらわなきゃ行けなかったし。  私はそのまま眠たくなるまで勉強に集中し、お父さんがおやすみを言いにきてくれたところで、私も自分のベッドに潜り込んだ。  一日中勉強をしていた体は、すぐにすとんと眠りに落ちる。  ーーその時。 「遥花」 「ん……」  名前を呼ばれて目を開くと、私の部屋の中に神様がいた。 「ーーーーーーーー!?」  驚いて声をあげそうになると、しっと指を立てられる。 「これは夢だけど、寝言で叫んだらお父さんが起きちゃうから」 「ゆ、夢……?」 「遥花、夏祭り行かなかっただろ? よかったら俺と一緒に、夢の中で遊びに行かないか」  神様が手を差し伸べる。  私が手を取って起き上がると、気づけば景色が変わっていた。 「わあ……!」  連なって煌々と光る、提灯の光。左右に軒を連ねる縁日の出店。  賑わう人の声。いろんな時代のいろんな人が楽しそうに練り歩く。賑やかな光と人の気配は裏山の上まで続いていて、ぴかぴかのお社が山の中腹で輝いている。 「夢みたい……綺麗」 「みたいじゃなくて、これは夢だよ」  神様が隣で笑う。 「俺の記憶の中の夏祭りを全部混ぜて、都合よく組み立ててみたんだ」 「そうなんだ。……なんだかパジャマで歩くの勿体無いな」 「よく見てみろよ」 「えっ」  気づけば私は、浴衣姿になっている。淡い桜色に夕顔の花が染め抜かれた、可愛らしい浴衣だった。緑がかった帯には蔦のような模様。  髪もちゃんとまとめられて、頭を揺らすとかんざしがゆらゆらと揺れるのがわかった。 「これ、神様がしてくれたの?」 「夢の中で消えるけどな。気に入ってくれたか?」 「浴衣、小さい時以来、実は着たことなかったの。……嬉しい。ありがとう」  隣に立つ神様もいつものカットソーにデニムではなく、白地の着物を纏っていた。私にはよくわからないけれど、浴衣より少し生地が厚いものだ。 「神様は浴衣じゃないんだ」 「たまにはそれなりの格好、してみたいもんさ」 「いつもジーパンだもんね」  私たちの足元を、お面をつけた小さな子が駆けていく。神様は笑顔で手を差し伸べた。 「行こう」 「うん」
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