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6.終わりの始まり
秋は瞬く間に通り過ぎ、冬服にコートを着込む季節になった。推薦入試の私は夏祭り以降、ほとんど学校と家を往復するばかりの生活だったけれど、一週間に最低2回、土日は必ず神様の元へと足を運んだ。
「風邪ひくぞ」
そう言いながらも私を迎えてくれる神様は、いつの間にかジャンパーを羽織った姿になっていた。中に着込んだパーカーのフードをかぶって、息を白くして、いつもボロボロの境内に立っている。
「神様こそ、ずっとそこにいると寒くない?」
「寒くねえよ。ただ厚着してなかったら、遥花が寒く感じるだろ」
「確かに」
それでも風邪をひかないように、会うのは水筒に入れた熱々の甘酒がなくなるまで。
私たちは紅葉の美しい境内で石段に座って寄り添って、他愛無い話を語り合った。
「そういえば、いよいよ4月からの市名が決定したんだって」
「へえ」
「私が通う桜ノ端高校も、来年からは制服も高校名もリニューアルするんだよ。新しい制服いいなあ。スラックスあるから、冬寒くないし」
甘酒を入れたカップを両手で抱え、私は神様に言う。
「寂しいけど、実家の荷物も少しずつお父さんの実家に送ってるんだ。誰も住んでいないから、お父さんの使っていないものとか、お母さんの服とかを優先的にね。私の荷物は受験が終わってから手をつけることになってるんだけど、思ったより多くて、」
神様は黙って手元のカップを見つめていた。
「神様?」
「ん、ああ……悪い。考え事してた」
笑って誤魔化す神様。
最近、神様がじっと黙り込んで考え事をしているときが増えたように思う。
「何かあったの? 最近ぼーっとしてること多くない?」
「んー……ちょっと、耳貸せ」
「いいけど」
真面目な顔で言われたので素直に耳を寄せると、次の瞬間息を吹きかけられた。
「ひゃっ!?」
「ははははは、引っかかった」
「やめてよ、もう!!!」
耳を押さえて声を荒げる私を、神様は無言で抱き締めた。
「ん、」
腕の強さに息が詰まる。
捕らえられて、そのままーーぎゅっと、無言できつく抱きしめられる。
神様の鼓動が、制服とパーカー越しに、どくん、どくん、と伝わってくる。
「……そろそろ帰れ。今夜、雨が降るみたいだから」
神様はパッと私を解放して、何事もなかったかのように立ち上がる。
私もそれ以上はなんだか追求できない気がして、促されるままに山を降りることにした。
「……雪だ」
空を見上げ、私はつぶやく。
神様に抱きしめられて火照った体が、頬に、髪に降り注ぐ冷たい粒に冷やされていく。
「神様は……私を、どう思ってるのかな」
最初はただ、慰められて抱き寄せられて、心地よいばかりだった。
けれどだんだん、腕の中に包まれるとふわふわとした感情に包まれて、無敵になったような、逆にどこまでも切なくて苦しいような、よくわからない感覚に包まれるようになった。それがきっと「好き」ってことなんだと、私は初めて自覚した。
私は神社を振り仰いだ。神様はまだ、私を上から見ているのだろうか。
「……またくるね、神様」
受験が終わった時、告白しよう。
私は心に誓って、雪から逃れるように家へと駆け出した。
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