7.私だけの神様

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   神様はゆっくりと体を離し、私に改めて向き合った。  先程までの頑なさは嘘のように、神様は私を真っ直ぐに見てくれた。  手のひらが、優しく私の手を包み込んでくれる。  木枯らしは今もまだ吹き荒んでいるけれど、ちっとも寒くなかった。 「神様。私は神様が好きです。初恋です。……付き合って欲しいです」 「そうか。……ったく、泣けるほど光栄だ」  神様は困ったような、諦めたような風に笑う。まるで普通のお兄さんのような笑顔だ。それでも神様は繋いだ手に力を込めてくれた。 「……彼女に、してくれますか?」 「俺でいいなら、喜んで」  神様は甘く抱き寄せて、私の頭を撫でてくれた。身体中が震える気がした。  でも、これだけじゃ足りない。だって今までだって抱きしめて頭を撫でてくれていたから。 「もっと、彼女扱いしてくれてるって証明して」 「何が欲しい?」 「…………キス、してほしい」 「いきなり大胆だな」 「駄目?」 「神様やってるといろんなお願いを聞くもんだけど、口付けを乞われたのは初めてだ」  その時、視界がふわりと暗くなる。目を細くした神様の顔が近づいてきてーー私は、目を閉じてキスを受け入れた。  神様のキスは神通力が籠っているのだろうか。触れるだけで、びりっとして、ふわっとする。  たっぷり押し付けられた後に、唇が離れていく。少し恐々と震えているようだった。  目をゆっくりと開くと、神様が至近距離で切なそうに笑っていた。 「……もしかして、キス、初めて?」 「ああ」 「ふふ、おかしい。神様、すっごく長生きなのに」 「しょうがないだろ。こういう機会、全ッ然なかったんだから」  なんだかおかしくなって、私たちはふわふわとした気持ちのまま額を寄せ合ってひとしきり笑った。  抱きしめあって、太陽を見上げながら何をするでもなく一緒にいて。  まるで一生分のキスを先取りするように、神様は私にたくさんキスをしてくれた。  けれど夕日の翳りは私たちの時間に終わりを告げる。父が帰る時間の前に、スーパーに行って、何か夕飯になるものを買わないといけない。 「じゃあ、帰るね」  名残惜しく神様に背伸びしてキスした私に、神様は神様らしい穏やかな眼差しを落とした。 「遥花。お前が覚えてくれている限り、俺はずっと、お前だけの神様だよ」  制服襟、リボンのあたりをトン、と小突かれる。私はそこに手を触れる。  息も白い2月の夕暮れなのに、神様と触れ合っていた体はまだぽかぽかしていた。 「独り占めできるんだね、神様を」 「……ああ」  私は神様に、できるだけ精一杯明るい笑顔を見せた。  ーー神様はいつか、私のここだけに住む神様になるのだ。
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