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橋田と別れ、帰宅。
庭に、姉さんの自転車があった。
「お姉ちゃん達も、帰ってきたのかな?」
「だろうな」
姉さんと吉倉の高校も、今日が終業式だ。
ちらっとれんげ荘を見ると、吉倉の自転車を見つけた。駐輪場がないので、吉倉は自室の前に自転車を置いている。
……まあ、わざわざ確認しなくてもわかるんだけど。だって庭に入った時点で、吉倉のはしゃぐ声が聞こえてくるから。
「ただいまー」
「ただいまーっ」
玄関の引き戸を開け、ふたりで声をかける。すると、「うおっ! 待ってたよーっ」と、吉倉が走ってくる。
「ねーふたりともっ! 水着、どっちがいいと思うーっ? ホットパンツに挑戦したいとも思うんだけど、柄はこっちの方が好きでさー」
と、おれ達の前に突き出してきたのは、水着のカタログ。
「おれ達、帰ってきたばかりなんだけど……」
「や、だって、そろそろ決めないとじゃん!?」
いつも元気な吉倉だけど、今はとびきりはしゃいでいるようだ。カタログをきゅっとにぎりしめ、目をキラキラさせた。
「旅行! もうすぐなんだよ?」
吉倉の言うとおりだ。
今度、れんげ荘のみんなで旅行に行くことになった。
ゴールデンウィークは遠出ができなかったので、夏休みに一度くらいは……。ということで、先月末、じいさんが提案していた。
光さんは仕事があるし、草一郎は現在、テスト期間中。
吉倉にいたってはバイトを辞めるらしく、今のうちに稼いでおきたいそうだ。受験生だしな。
でもみんな、都合を合わせてくれた。
「しず、芙美花ちゃん。お帰りなさい」
と、エプロン姿の姉さんが、台所からやってきた。
「ご飯にしよ。今からおそうめんゆでるね」
「うぇーいっ、そーめーん!」
「そーめーん!」
吉倉が飛び跳ねるので、芙美花まで一緒になってはしゃぎはじめた。
そんな吉倉は、まだ制服姿だ。「着替えてくる!」と、靴をはきはじめる。今にも走り出しそうな吉倉を、姉さんが引き留めた。
「先輩。草一郎さんを呼びにいってくれますか? お昼、一緒に食べようって誘ってるので」
「……勉強中かな?」
おれが聞くと、姉さんがうなずいた。
「今日は二時半から、ふたつテストがあるんだって」
「ん、じゃあ呼んでくるね! 芙美花ちゃんもランドセル置いてく?」
「そうする! お姉ちゃん、すぐもどるねっ。芙美花、きゅうりいっぱいほしい!」
「あたしは肉多めね!」
……などと言いながら、二人は出ていった。
取り残されたおれと姉さんは、顔を見合わせる。
「……そうめんに、肉?」
思わず聞くと、姉さんはちょっと眉を下げつつ、笑った。
「肉みそならあるよ」
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