第47話:みんなで笑うんだ

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 じゅ~っと、肉の焼ける音がする。  四角いグリルの上に、肉や野菜がたくさん並んでいる。ウインナーや肉の脂が落ちて煙が出るのを、姉さんがうちわであおいでいた。火の通った具材を、草一郎がひとつひとつトングでとって、お皿に並べる。 「ほら、しず」 「……ありがと」  受け取りつつ、おれは顔をしかめてしまう。……ピーマン、入ってる……。 「うえぇ……お兄ちゃん、ピーマンやだぁ……」  同じくピーマン嫌いな芙美花も、文句を言う。 「好き嫌いしちゃダメだよ、ふたりとも」 「そ~そ~! おっきくなれないよ?」  光さんと麻奈ねえにたしなめられ、おれと芙美花は顔を見合わせる。そして、しぶしぶうなずいた。抵抗しても無駄だと悟ったのである。  じいさんがにっこり笑って、おれと芙美花の皿にピーマンを移す。 「……成長が楽しみじゃ!」 「じいさんも食えよっ!!」  じいさんのピーマン嫌いが一番厄介なのだ。結局姉さんに、「おじいちゃん、めっ!」と叱られている。どっちが孫かわからないな。  おれははぁっとため息をついて、箸をとる。どうせ食べるのなら、はじめに片付けてしまおう。ひと思いにピーマンをつまみ、ぱくっと食べる。苦くて固い。まずい……。 「しずくん、えら~い!」  麻奈ねえがぱちぱちと拍手をするので、みんな便乗した。なんでこんなことで褒められてるんだ。おれは幼稚園児か? 「ご褒美に、お姉ちゃんがあーんしてあげる~!」 「いらねぇよ!」 「じゃあ、芙美花がしてあげる!」 「なんでだよっ」  麻奈ねえと芙美花が近づいてくるので、あわてて後ずさりする。  女子にあーんされるなんて、近所の人に見られたら恥ずかしくて死んでしまう! でも、麻奈ねえも芙美花も、肩を落としてしょんぼりしてしまった。 「静彦くん、いらないって……」 「嫌がられた……そんなにお姉ちゃんのことが嫌いかぁ……涙出てきた……」  麻奈ねえの目が、うるんでいる……。 「……あ~もう! 一回だけだからな!」  さすがに泣かれたら良心が痛む。恥ずかしいのをこらえながら口を開けると、ふたりとも嬉しそうににっこりした。そこで気づく。嘘泣きか!  “やっぱりやめろ”と言う隙もなく、「あ~ん!」と、おれの口にピーマンを……。 「あらあら~」  道の方から、おっとりした声が飛ぶ。おれは固まった。 「あ、福島さん。こんにちは」  姉さんがあいさつする。ご近所に住んでいる、福島さん一家が通りがかったようだ。おばあさんと奥さんがほわほわ笑っていた。三歳の男の子も、奥さんに背負われながらじぃぃーっとおれを見ている。 「静彦くんったら、ふだん落ち着いてるけど、まだ甘えんぼうなのねぇ」 「仲良しでうらやましいのう~」 「そうじゃで! 今日はみんなでばーべきゅーなんじゃ!」と、じいさんが元気よく答えているけど……。  おれは、奥さんの言葉にショックだった。それじゃあまるで、おれから“あーんして”って甘えたみたいじゃないか……。 「……部屋に戻る」 「ああっ、しず、待って待って!」  泣きそうになりながら玄関に向かうおれを、姉さんがあわてて引き留めた。草一郎がジト目で麻奈ねえを見て、「吉倉。しずは人一倍シャイなんだから、あんまり無理強いするなよ」と注意してくれている。このふたりは良心だ……。 「静彦くん……」  光さんがおずおずと話しかけてくる。良識派な光さんも、おれを哀れんでくれるのか……。 「君はまだ子供なんだから、甘えんぼうでも恥ずかしくないんだよ?」 「違いますっ!!」  だから、なんでおれが“あーんされたい人”になってるんだ!  真っ赤になって怒鳴れば、みんな大爆笑だった。それぞれの笑顔が清々しくて、なんだかおれまでおかしくなった。  暑い夏。爽やかな青空と、まぶしい陽の光。  照らされるみんなの笑顔も、キラキラ、キラキラと輝いていた。  この夏は、色んなことがあった。  おれにとって、忘れられない日々になった。  楽しい思い出がいっぱいできたけど、それだけじゃなくて……。  悲しい思い出を、“それでいい”と受け止められるようになった。それが今、とても誇らしい。 (……大丈夫だ)  にぎやかに笑い合うみんなを見ていると、そう思えた。  この先、どんなことがあっても……みんながそばにいてくれたら、何も怖くない。  きっと乗り越えられるだろうと、胸を張って言えるから。 (きっと、大丈夫)  満たされた想いのまま、夏が終わる。  このときのおれは、まったく予想していなかった。  “終わり”が……次の季節が、すぐそこに来ていることを――。    ひととせ 第二章・完

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