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じゅ~っと、肉の焼ける音がする。
四角いグリルの上に、肉や野菜がたくさん並んでいる。ウインナーや肉の脂が落ちて煙が出るのを、姉さんがうちわであおいでいた。火の通った具材を、草一郎がひとつひとつトングでとって、お皿に並べる。
「ほら、しず」
「……ありがと」
受け取りつつ、おれは顔をしかめてしまう。……ピーマン、入ってる……。
「うえぇ……お兄ちゃん、ピーマンやだぁ……」
同じくピーマン嫌いな芙美花も、文句を言う。
「好き嫌いしちゃダメだよ、ふたりとも」
「そ~そ~! おっきくなれないよ?」
光さんと麻奈ねえにたしなめられ、おれと芙美花は顔を見合わせる。そして、しぶしぶうなずいた。抵抗しても無駄だと悟ったのである。
じいさんがにっこり笑って、おれと芙美花の皿にピーマンを移す。
「……成長が楽しみじゃ!」
「じいさんも食えよっ!!」
じいさんのピーマン嫌いが一番厄介なのだ。結局姉さんに、「おじいちゃん、めっ!」と叱られている。どっちが孫かわからないな。
おれははぁっとため息をついて、箸をとる。どうせ食べるのなら、はじめに片付けてしまおう。ひと思いにピーマンをつまみ、ぱくっと食べる。苦くて固い。まずい……。
「しずくん、えら~い!」
麻奈ねえがぱちぱちと拍手をするので、みんな便乗した。なんでこんなことで褒められてるんだ。おれは幼稚園児か?
「ご褒美に、お姉ちゃんがあーんしてあげる~!」
「いらねぇよ!」
「じゃあ、芙美花がしてあげる!」
「なんでだよっ」
麻奈ねえと芙美花が近づいてくるので、あわてて後ずさりする。
女子にあーんされるなんて、近所の人に見られたら恥ずかしくて死んでしまう! でも、麻奈ねえも芙美花も、肩を落としてしょんぼりしてしまった。
「静彦くん、いらないって……」
「嫌がられた……そんなにお姉ちゃんのことが嫌いかぁ……涙出てきた……」
麻奈ねえの目が、うるんでいる……。
「……あ~もう! 一回だけだからな!」
さすがに泣かれたら良心が痛む。恥ずかしいのをこらえながら口を開けると、ふたりとも嬉しそうににっこりした。そこで気づく。嘘泣きか!
“やっぱりやめろ”と言う隙もなく、「あ~ん!」と、おれの口にピーマンを……。
「あらあら~」
道の方から、おっとりした声が飛ぶ。おれは固まった。
「あ、福島さん。こんにちは」
姉さんがあいさつする。ご近所に住んでいる、福島さん一家が通りがかったようだ。おばあさんと奥さんがほわほわ笑っていた。三歳の男の子も、奥さんに背負われながらじぃぃーっとおれを見ている。
「静彦くんったら、ふだん落ち着いてるけど、まだ甘えんぼうなのねぇ」
「仲良しでうらやましいのう~」
「そうじゃで! 今日はみんなでばーべきゅーなんじゃ!」と、じいさんが元気よく答えているけど……。
おれは、奥さんの言葉にショックだった。それじゃあまるで、おれから“あーんして”って甘えたみたいじゃないか……。
「……部屋に戻る」
「ああっ、しず、待って待って!」
泣きそうになりながら玄関に向かうおれを、姉さんがあわてて引き留めた。草一郎がジト目で麻奈ねえを見て、「吉倉。しずは人一倍シャイなんだから、あんまり無理強いするなよ」と注意してくれている。このふたりは良心だ……。
「静彦くん……」
光さんがおずおずと話しかけてくる。良識派な光さんも、おれを哀れんでくれるのか……。
「君はまだ子供なんだから、甘えんぼうでも恥ずかしくないんだよ?」
「違いますっ!!」
だから、なんでおれが“あーんされたい人”になってるんだ!
真っ赤になって怒鳴れば、みんな大爆笑だった。それぞれの笑顔が清々しくて、なんだかおれまでおかしくなった。
暑い夏。爽やかな青空と、まぶしい陽の光。
照らされるみんなの笑顔も、キラキラ、キラキラと輝いていた。
この夏は、色んなことがあった。
おれにとって、忘れられない日々になった。
楽しい思い出がいっぱいできたけど、それだけじゃなくて……。
悲しい思い出を、“それでいい”と受け止められるようになった。それが今、とても誇らしい。
(……大丈夫だ)
にぎやかに笑い合うみんなを見ていると、そう思えた。
この先、どんなことがあっても……みんながそばにいてくれたら、何も怖くない。
きっと乗り越えられるだろうと、胸を張って言えるから。
(きっと、大丈夫)
満たされた想いのまま、夏が終わる。
このときのおれは、まったく予想していなかった。
“終わり”が……次の季節が、すぐそこに来ていることを――。
ひととせ 第二章・完

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