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第2話
階段を駆け上がる。
いつもの通学路を10分も歩けば校門は目の前だ。
見慣れたはずの街並みが今日は違ってみえる。
新しい一歩を踏み出した、あたしだけの記念日だ。
瑶林高等学校は長い歴史のある女子校で、それなりに人気もある。
元大名屋敷跡にそのまま建てられたため、敷地面積も広い。
それをぐるりと取り囲む高いレンガの壁は、この学校のシンボルでもあった。
出入り出来る門だって一つしかない。
あたしはその高いレンガに挟まれた鉄格子の正門を見上げる。
ぐるぐると渦巻く葉っぱの装飾の、ぴったりと閉じられた横にくっついてるインターホンを押した。
「遅刻しました。開けてください」
「何年何組? 名前は?」
ため息をつかれる。
この声は国語の堀川か?
あたしはレンガの壁に埋め込まれたカメラに向かってこん棒を掲げる。
「二年二組花田ももです。鬼退治に行ってました」
赤茶色のレンガに同化したようなそれは、無言のまま反応した。
遠隔操作でガチャリと門の開く音が聞こえる。
そっと押してみると、わずかに開いた。
くぐり抜けたのを見届けると、それはオートマチックに閉じてゆく。
再びガチャリと音がしたときには、完璧な開かずの門に様変わりしていた。
「結界かよ」
隔離された広大な敷地に、芝生の庭園と静かな木立が揺れる。
だけど残念なことに、空だけは繋がっているんだな。
学校は授業の真っ最中で、あたしは体育の授業をしている校庭の横を通る。
自分のクラスだ。
気づいたクラスメイトたちが遠くで手を振った。
「ももー!」
あたしはそれに大きく振り返す。
そうだ。
今はサッカーやってたんだ。
鬼退治とか行かずに学校来とけばよかったかな。
時計を見上げる。
2時間連続の体育はまだ続いていた。
「急いで着替えて来るー!」
教室へ駆け上がり、こん棒と鞄をロッカーに放り込む。
速攻で体操服に着替えると、運動場に飛び出した。
一、二、三組が合同で授業をしている。
あたしは二組に合流した。
「遅いよもも」
「負けてんの?」
「いっちーが頑張ってる」
長いミルクティー色の髪を後ろで一つに結んだいっちーは、ピッチの真ん中に立っていた。
対戦相手の三組が上げたパスを、敵ごと体でなぎ倒し胸で受け止める。
真正面でキャッチしたそれを、思い切り蹴り上げた。
相手ゴール前に控えていた味方にパスが渡る。
そのままきれいなゴールが決まった。
湧き上がる歓声を横目に、いっちーは口元を拭う。
さっき相手と体ごとぶつかったところかな?
血が出てるみたいだ。
試合は後半開始20分を過ぎたころで、得点は二組が2点、三組も2点の同点だ。
選手交代の合図。
三組はここで金色の髪を短く刈り込んだ坊主頭の巨乳を出してきた。
ずいぶんと背は低い。
「これ以上、あんたらに点は取らせないから」
人差し指で狙いを定め、ウインクでいっちーを撃ち抜く。
いっちーは無言で彼女をにらみつけた。
試合再開。
キックオフで受け取ったボールは金髪坊主に渡る。
いっちーはその子に向かって走り出した。
「あの三組のボール持ってる子、誰?」
「パツキン坊主? 猿木沢さん。さーちゃんって呼ばれてる」
いっちーは肩を下げ、彼女にぶつかっていく気満々だ。
猿木沢さんはボールを膝に蹴り上げ、リフティングをしながらいっちーの突撃して来るのを待っている。
いっちーの右足が鮮やかに空を切った。
「なんか空手の蹴りと勘違いしてね?」
あたしはそんないっちーに眉をひそめる。
「まぁ道場の娘だからさー」
しっかり型の出来上がった流暢な連続技。
猿木沢さんは押され気味だ。
リフティングだけでかろうじてかわしている。
そんな攻防がどこまでも続くのかと思った瞬間、ふいに坊主頭はニッと笑った。
「その前しか見ない性格、直した方がいいと思うよ」
膝上のボールを高く蹴り上げた。
いっちーの頭上を超え軽やかに舞い上がる。
そのボールを視線で追いかけるいっちー。
と、その横を彼女はさっと抜いた。
次の瞬間、猿木沢さんの足がガツンとボールを蹴り上げる。
「しまっ……」
いっちーの気づいた時には遅かった。
彼女の膝上で踊るボールを奪うことに集中しすぎて、ジリジリと立ち位置を動かされていることに気づかず、彼女の罠に嵌まっていた。
センターラインを超え自軍に攻め込まれ、味方のパスが通りやすい配置になった瞬間、猿木沢さんからのボールは味方に渡る。
「さーちゃん、ナイス!」
得点を知らせるホイッスル。
難なく逆転のゴールを取られてしまった。
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