変わらない人と変わる距離

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 街は変われど、人は変わらないと思っていた。  生まれ育った場所は再開発であれよあれよという間に変貌を遂げ、真新しい戸建てが立ち始めた。数メートルの差で再開発地域から外れた家に住む私は、その様をただ眺めているだけだった。そんな私に、ある日、幼稚園以来の親友が言った。 「引っ越すことになったの」 「えっ。どこに」 「今より学校から遠い所。校区がぎりぎりで転校することになるかも」  悪戯好きの親友の冗談かとも思ったが、本当だった。  彼女の家と私の家はそこそこ離れている。今の状態からさらに遠くに行ってしまうのかと思うと、とてもショックだった。  その日から、私は街を恨めしげに睨むようになった。見慣れていた景色がどんどん変えられてゆく。すべて建てられた暁には、見慣れない人々がわらわらと押し寄せるのだろう。家の目の前に完成しつつある戸建てを見ながら、私は時々悔し涙を流した。  長期休暇をはさみ、親友は転校してしまった。  味気ない学校生活が始まることを憂いた矢先、親友から連絡があった。 『うちに来ない? そっちの家の前まで迎えに行く』  返信する間もなく、インターホンが鳴り、親友が迎えに来た。  遠くからわざわざごめんと私がいうと、なぜか彼女は笑った。  首を傾げていると、私の手を引いて、新しく建った向かいの家の前に立った。 「ここだよ。ここが新しい家なんだ」  その言葉を理解した瞬間、私は親友に抱きついた。 「馬鹿! 全然遠くないじゃん」  通っていた学校からは数メートル遠くなったとのたまう親友。  もう一度抗議すると、ごめんごめんと彼女は笑いながら謝った。  私は嬉し涙を滲ませながら思った。  街は変われど、変わらない人もいるのだ、と。
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