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ラウラ
人生が変わったという瞬間は人それぞれだ。しかし、誰しも経験がある瞬間だ。
食べたことのない食べ物を一口食べた。とか、
いつもと違う道を歩いてみた。とか、
誰か新しい人と話してみた。とか、
きっかけはそれぞれだと思う。
私の場合、それは音楽だった。
音楽で人生が変わる。音楽で人生が救われる。
これはそんなどこにでもある。ありきたりな話。
当時私は中学三年生だった。そのときは何もかもが最悪だった。両親は顔を合わすたびに大喧嘩。友達とも上手くいかず、受験のストレスで毎日鬱屈した日々を送っていた。
その日も、何か明確なきっかけがあったわけではなかった。塾が終わり夜遅くに帰宅すると、いつものように両親が些細なことで喧嘩をしていた。
パパが何かを喚きながら投げたお皿が、けたたましい音を立てて割れたとき、私の中で何かが切れた。
私は取り乱すこともなく部屋に戻ると、ゆっくりとドアノブに紐をかけた。
もう全てがどうでもよくなっていた。誰も嫌いじゃないし、何も憎くはなかった。ただ、単純に「もういいや」と、思ってしまったのだった。
自分でも驚くほど冷静に準備を整えると、ドアの前に腰を下ろし、紐を首にかける。ゆっくりと前に向けて体重をかけると脳が酸欠状態になり徐々に意識が遠のいてくる。
意識の全てがブラックアウトする瞬間、部屋のCDコンポが大音量で再生された。
当時は音楽配信サービスなんてものは無いから、CDを一枚一枚コンポに入れて音楽を聴くのが主流のスタイルだった。
突然の大音量に私は飛び上がる。その時の勢いで首にかかった紐がちぎれてしまった。呼吸を思い出した私は激しくせき込んだ。
突如流れ始めたその曲は、私が好きなバンドのアルバムの曲だった。11曲あるうちの9曲目。
呆然とする頭で、今自分が何をしようとしていたのか理解したとき震えが止まらなくなった。
それと同時に私はさっき死んだのだ。そう直感的に感じたとき、何故だか心がすっと軽くなった。それまで煩わしかったことや、嫌だったこと、そのすべてが怖くなくなった。
私の人生はここで、この瞬間変わったのだった。
私は泣いた。
それまでの人生で、一番泣いた。それこそこの世にも産まれ落ちた瞬間よりきっと泣いた。
これが私の二度目の誕生日だったと、今なら思える。
ハッピーデスデイ。
その後のことはよく覚えていない。でも、今がそれなりに幸せであるという現実があるということは、物事はきっと良い方向に向かっていったのだろう。
余談ではあるが、あの日、あの時、コンポにCDは入っていなかった。あの時あの曲が流れた理由は今でもわからない。
今も落ち込むことがあると私は近所にある高架線の下でこの曲を聴く。
この大切な曲を、南北へ続く高架線の下で。
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