優しい毛むくじゃら

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 『妖怪にとっては住みやすそうな場所だな』と思いながら苔むした丸石片手に歩いていると、森の奥の方から『ウオウオウゥゥ!』という野太い鳴き声が聞こえた。  気になった私は見に行ってみることにした。  森の中は木の根っこやゴツゴツした岩が多く転がっており、非常に歩きづらい。化け術を解こうかと思いはしたが、こんな場所を素足で走るのは痛そうだったのでやめた。まだ草履を履いている今の方がマシだ。  声の位置に近づいてはいるもののなかなか姿を現さない。周囲を見渡して見ても何もいない。木の上にいるのかと思い上を見上げて見ても、小鳥が飛んでいるだけだ。 『もう戻ろうか』  そう思った時、ふと後ろを振り返ると何やら茶色い毛むくじゃらの塊が動いている。先ほど見渡した時にはいなかったというのに。見逃していたのだろうか。毛むくじゃらの塊はどすどすと地団駄を踏んでいる。怒っているのだろうか?なんとも奇妙なその塊に近づいてみることにした。
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