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「え、そうなの……。それはちょっとまずいかも」
「え、なんで?」
聞き返すと、うーんと彼女はあごに手を当てて真剣な表情で考える。
「いや、その本ね。とても良い本ではあるんだけど、あたしたち未修者には、まだちょっと早いかなあって」
「未修者やと、あかん本とかあるん?」
今度は七海が聞き返す。
「まあ、ダメってわけでもないんだけど、本によっても難易度があるからさ。この本は正直既修者向けなんだよね」
「既修者ってことは、一個上の学年か」
満も一緒に相槌を打つ。
「そうそう。ロースクールって、基本三年じゃん? 私らみたいに法学の経験のない未修者で入ると一年生からだけど、既修者で入ると二年生からスタート。つまり、一年はローで勉強したのと入学の段階で同じになるわけね」
「うんうん、そうやんね」
満ももちろん知っている。既修者で入れば基本的な座学は免除になって、いきなり演習から入ることも、学費が一年浮くことになることも知っている。
「だから、なんていうのかな。その神崎くんの読んでる本は、ある程度法学の素養のある人が読む本、っていうか、あたしらにはまだ早いっていうか」
「あー、そういうことか」
言われて、満は少し安堵を覚えた。読んでいても全然頭に入らなかったのは、自分の頭が悪すぎるためではなかったようだ。
「それで全然わかんなかったのか」
満が白状するようにそう言うと、彼女は、その通り! とビシッと親指を満に立てた。
「なんか本屋行っても、『民法Ⅰ』とか『民法講義』とか、どれも同じようなタイトルだから、中身も同じかと思ってたな」
「あるある。初心者には不親切だよねー。あたしも最初はわけわかんなかったわ」
その発言を聞いて、満は一つの疑問がわいた。というか、その前にもっと大きな疑問があった。
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