デイブレイクー出会い

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デイブレイクー出会い

 大好きなお父さんが天国へ旅立ってから、二年。お母さんは、ようやく新しいパートナーを見つけたみたいだった。  ぼくは不思議と、その人をすぐ受け入れられて、初めて会った日にはもう打ちとけられていた。  たぶん、お父さんにどこか似ていたんだと思う。  でも、そんなことを言ったら、新しいお父さんが困ると思って、ぼくは口にしなかった。  お義父さんには、五人の息子さんがいた。  いきなり、ぼくに五人のお兄さんができた。  とまどった。  どうしたらいいのか、本当にわからなかった。  しかも、お義父さんとお母さんは、この街を離れ、東京へ行くことになった。お義父さんはラーメン屋さんを経営していて、こんど東京に進出するから、お母さんも行かなきゃならないって──。 『人夢(とむ)……。どうしても、ここに残るの?』  ぼくはこの街に残るほうを選んだ。  けれど、中学生で一人暮らしはもってのほかだと、お兄さんたちと一緒に暮らすことになった。  ほくは、転校するのがいやだとか、そんな小さな理由で残ろうと思ったわけじゃない。どのみち、お兄さんたちと暮らしても、いまの中学とは学区が違う。 『お父さんのそば、離れたくないから』  お父さんの大好きなこの街だったら、これから先にどんな大変なことが待っていても、立ち向かっていける。  そんな気がしたんだ。  だから、ぼくは──。  夢からさめ、見慣れない色の天井をしばらく眺める。  ぼくの部屋は洋室のはずなのに、いま見えている電灯が思いきり和風なのだ。  ぼくはベッドを飛び起きた。落ちつく間もなく普段着に着替え、新しい自分の部屋を出た。  きしむ廊下を少し走り、台所だと思った戸を横へと引いてみる。  ──が。 「わわ、間違えたっ」  そこは洗面所。  戸を閉めて見回し、今度こそ台所だろう入り口を見つけた。耳を澄ませば、包丁がまな板を叩く音がしている。  ぼくはゆっくりとガラス戸を開けた。 「おはようございます」  朝食の準備が進む音を耳にしながら、流し台に立っている人にあいさつをした。  朝、起きてすぐに、お母さん以外の人にあいさつするなんて、そうあったものじゃなかったから変に緊張した。 「ああ、人夢。おはよう」  真っ白なワイシャツに紺の縦じまのズボン。その上に黒のエプロンを着けている一清(かずきよ)さんが、笑顔で振り返った。  おみそ汁が煮え立つ音。魚を焼く匂い。食卓の中央には小鉢に盛られたお漬け物。  なにもかもが百八十度違う世界──。  こんがりキツネ色のトーストも、バターもメープルシロップもはちみつも。デザートに、フルーツヨーグルトとか、これからはすべて我慢して、ここのルールに合わせていかなきゃならないんだ。 「それにしても早いな。まだ六時過ぎだぞ。あまり寝れなかったか?」  一番上のお兄さんである一清さんは、ガステーブルのグリルのふたを開けながら言った。魚をひっくり返す。  ぼくは壁時計を見上げた。  うっかり時間も見ずに、勢いだけで起きてしまったけど、六時はさすがに早すぎる。 「ぼく手伝います」  一清さんのとなりに立とうとしたら、手を出されて止められた。ついでに頭を撫でられる。 「いいよいいよ。人夢はまだ子供なんだから、そんなの気にしなくていい。なんだったらもう少し寝てこいよ。時間になれば起こすから。……って、二度寝は逆につらいか」 「……」  本当に一清さんはよくできた人だと思う。  面倒見がよくて、気さくで穏やかで、一番お義父さんに似ている気がする。この家にいきなり転がり込むことになったぼくを、優しく迎えてくれたし。  右も左もわからないここで知らない人たちと暮らすぼくの不安を、拭ってくれている。 「でも、なにもしないのも……」 「そうだな……。じゃあ、ロクの散歩に行って来てくれるか?」  持っていたさいばしを鳴らし、一清さんは廊下の方を指した。けど、正確には、廊下をへだてた庭を、だ。 「ロク……ちゃん」 「普段なら豪(ごう)が散歩に連れて行くんだけどさ、ほら、あいついまいないだろ? とりあえずうちの朝は、早く出る人間から先に飯食わせなきゃだから。頼めるか?」 「……」  なんとなくうなずいた。  というのも、ぼくは、ロクちゃんがちょっと苦手だったり……。  でも、なにか役に立つことをしないと、仕事があるのに朝からせわしなく働いている一清さんに悪い気がした。 「帰ってくるころにはご飯食べられるから」  そう言って、また忙しそうに動き始めた一清さんには、それ以上は言えなかった。  台所を出る。階段下の収納スペースにあると聞いたロクちゃんの綱を取った。
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