(42) 最終話

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(42) 最終話

富豪の屋敷は、朝から大騒ぎ。その日に行われる予定だった子息の花嫁が居なくなっていたからだ。 「昨夜も皇女が部屋で騒いでいたが、何時もの事と放っておいたのに。誰かが拐ったんだ、息子の妻になる皇女を。兵士を連れて町中を探せ!」 インベル国の皇女を子息と婚姻させてインベル国の皇族となるはずの野望が打ち砕かれた。雇われた兵士達が町の宿をあら探しする。簡易宿の泊まり客も確認するのだ。 「ミッシェル・コンシリアさん。許可書はサニー神殿の発行だが、あんたは修道僧か?」 聞かれた男は、穏やかな表情で応える。 「はい、神にお仕えしていました。ですが、定年で退職して諸国を旅しております。あなたにも、神の祝福があらん事を。」 歳は40代の後半だろうか、ナイスミドル(美中年)だ。さぞかし、参拝者に人気があっただろう。 彼をゴメス商会の会長が探しているのを知らないでいる。いずれ、古の縁によって2人は顔を合わせる事になるのだ。兵士が居なくなると、ミッシェルは北の空を見た。 (嫌な予感は当たりそうだ。この土地に黒い影が立ち上がるというお告げだったが、凶相は強まるばかり。悪い事が無ければいいが。) その頃、誘拐されたとされている皇女は辺境の地に居た。鬱ぎ込んでいる姉のイライザにジョバンニが市場に連れ出して歩いている。 「ずっと部屋の中だったから、歩くのは気持ちいいよね。ほら、蚤の市だって。見よう、見よう!」 蚤の市にゾロゾロと入って行く一行は目立つ。美形のイライザにジョバンニ。三つ編み魔人のフランソワとて超のつく美形だ。 「ほら、どう?お姉さまに似合いそうだよ。」 励まそうと明るく振る舞うジョバンニにアンジェラは涙が出そうだ。何て、いい子なんだろう。何でもしてあげたくなる。 「ジョバンニさん、いいブーツがあるわ。買ってあげる。」 「え、本当?嬉しいなー!」 ジョバンニは、横目で睨む。自分には、買ってくれないのかと。それを離れた場所で観察するのはイライザ皇女。ギリギリと睨み付けていた。まだ、怒りが治まってないのだ。 (こいつが、こいつが、私の初めての口付けを奪いおったのだ。こいつがー!腹が立つ、腹が立つ。返せ戻せ元通りにしろ!私の汚れ無き身体に触れおってー。) 顔も忘れた今までの婚約者19人には、指1本も触れさせては無かった。 (だって、ウザイのだ。匂うのだ、生臭いのだ!寄られたくなかったくらいに!そういえば、こいつは臭くなかったな。爽やかな渓流の香りがした。唇は林檎味であったし(ウットリ)) 自分がボーとして憎きキス泥棒に見惚れている事を気がついていない。これも、恋の始まりなのか。だが、相手が悪すぎる。人では無いのだから。 ちっとも熱い視線を送られている事など考えもしない唐変木の魔法使い。目が吸い寄せられるように露店の古本に行く。それを呼ばれたように手に取った。 「かー、てて?(キリヌ・アレキサンドリア大帝)」 本来なら、目もくれない部類。なのに、本を開いてしげしげと書かれている大帝を描いた挿し絵を眺める。 すると、横に誰かが立った。その男は、フランソワに問いかけるのだ。 「近来に希な偉大なる魔法使いよ。望みを叶えてやろう、欲しい物は何だ?」 フランソワの黒い瞳に浮かんだ赤い光が強く輝く。ゆるりと首を回してブーツを品定めしている背の高い娘を見た。女騎士アンジェラ・ロペス。 「あー、アン!(あれが、欲しい。アンジェラが!)」 それを聞いて男はクスリと笑った。その娘に関わりのある者の力を感じとったからだ。その男、転生前も魔力の強い魔法使いであった。 再び、この世で逢い交わる。敵として。 ーーーーーーおわりーーーーー 2022,01,03,完
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