第1章 圭太

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第1章 圭太

 がっつりしたものを食べたい気分だった。 「お待たせしましたー! こちら牛丼温玉のせ大盛り一丁ですどうぞー! ご注文以上でよろしかったでしょうか?」  軽く(うなず)くと、バイトらしき若い店員は機械的な笑顔を浮かべた。「ごゆっくりどうぞー」と流れるように言って次の接客に移る。  平日昼間、牛丼屋は混んでいた。調理と接客、それぞれ1人ずつが担当していて、忙しく動き回っている。明らかに人手不足だ。さっきレジを打っていたと思ったらテーブルを片付け、次の客を迎え入れる準備をしている。さすがに疲れているのだろう、テーブルを拭いている間、店員は真顔だった。  その向こうの壁には「秋の得する1週間! 牛丼大盛り500円祭り開催中!」と黄色と赤を基調とした派手なポスターが貼られていた。一つ、小さいため息が「はぁー」と聞こえた気がした。 ――まぁ、ストレスたまるよなぁ。  西野圭太(にしのけいた)は箸を割った。隣では森田が既に食べ始めている。そちらも牛丼大盛りである。だが巨漢の彼を前にして牛丼の器はあまりにも小さすぎた。圭太と同じものかどうかも疑わしい。おいしそうにかきこむ姿につられて洸太は「いただきます」とつぶやいた。  甘辛いタレに、牛肉に、ご飯。二口目を急ぐのは、おいしいからではない。圭太の席からは入口に並ぶ人たちが見えた。なんとなくその目が「早く食べろよ」と言っているように感じられる。昼休み中に帰れるか、時計を気にしている会社員が多い。  きっと皆、ストレスを抱えている。  圭太は、今日の企画コンペで負けた現実、その理由を目の前で突きつけられている気分になった。  確かに、彼女の企画は、圭太が出したそれより斬新で、ターゲット層が広いと認めざるを得なかった。  だが、優れているとは思いたくなかった。問題点も多々ある。一方で、相手の欠点を考え込むと何でもかんでも負け惜しみになる気がした。  省みるべきは自分の企画なのに。  冷静な判断ができないことはわかっている。負けたのは、つい1時間前の事だったのだから。  黙々と食べ進める。温玉を絡めた牛丼は、紅しょうがのアクセントがきいていた。美味い、のだろう。だが期待していたほどではない。それもこれも、圭太の心が先程までいた会議室にあるからだ。  森田は最後の一口をズッ、と吸い込むように食べると、 「ま、お前の案も着実でよかったんだけどな」  圭太の心を読んだように言った。
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