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「歩数プラスカロリーからの経験値ってのは悪くないんだけどな、西野。
お前らしい堅実、着実な案だよ。でも今出す企画じゃなかった。社長のリクエストは『目新しい企画』だった。お前の企画はビジュアル面こそ変わっていたが、根底は過去の企画に未練があるのが透けて見えた」
返事をする前に、水を飲んだ。言いたいことは山ほどあるが、森田の前で言い訳じみたことを言うのもみっともなく思えた。
社長が引き抜いてきたこの凄腕ゲームエンジニアには短い付き合いながらも助けられっぱなしだった。企画コンペを機に、成長した姿を見せたかった。愚痴を言いたくなかった。
なのに。
既に悔しい気持ちは膨れ上がっていて、口に出さずにはいられなかった。
「だからって、ストレスを経験値にするなんて。
それだけ聞くと誤解を招きそうだ。宣伝すればそれなりにニュースになる。プレイもしてない奴からクレームがくるかもしれないぞ」
言ったそばから後悔した。こんな、相手を貶る事を言いたくはなかった。だが遅い。口から出た言葉は戻らない。
――クソっ、確かに篠崎の目論見どおりだ。俺だってストレスは毎日のように、この瞬間だって感じている。
ストレスはマイナスなことばかりだ。嫌な気持ちを抱えたまま過ごす時間はもったいないと思いつつ、ずるずると日々を過ごしてしまう。
それで霧散するならまだいいが、仕事の失敗につながったり、こうやって人に愚痴を言ったり、物に当たることもある。余計な買い物をしたことだってあった。
――これが経験値になるなら……そのゲームをやってみたい。そう思ってしまうじゃないか。
圭太が悶々としている間に、森田はケータイをいじり始めた。
「お前の案だって全く危険がないわけじゃないからな。一昨年のアプリみたいなことになりかねない。モデルの子が話題になって初速はよかったけどな……」
言い淀んだ彼はネギでも歯に挟まったのか、無造作に爪楊枝をつかんで歯の間をしごき始める。
一昨年のアプリ。その後の結果はわかっている。
ゲーム会社クレッセントが一昨年リリースしたアプリ「スリムハンター」は圭太の企画だったからだ。
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