第1章 圭太

3/20
前へ
/95ページ
次へ
「スリムハンター」のキャッチコピーは「戦って痩せる」だった。  健康ブームから思いついたアプリで、一日の歩数と、入力した体重に応じてログインボーナスが得られる。ボーナスと課金に応じてより良い武器を購入でき、モンスターを倒し、冒険する。  「ユーザーの皆さんに、楽しんで、健康的な体になってもらいたいです!」  きらきらと目を輝かせながらプレゼンした。  圭太は既存ゲームのイベント企画を次々成功させていた。そして、満を持しての新作ゲームの企画。絶対に上手くいく自信があった。頭の中では既に「リリースして1ヶ月で驚異的なDL数を叩き出し今年の殿堂ゲーム入り」というサクセスストーリーが見えていた。会社は圭太の企画にGOサインを出した。  モデルの如月(きさらぎ)セアラに事前プレイしてもらい、3kgの減量事例をひっさげて流したCMの反響もよく、リリース当初は森田の言う通り好調だった。    しかし、忘れもしないリリースから半年たった日のこと。「ホントにやせた!」「やりがいがある」「運動の習慣がついた」と好感を得て鼻高々だった圭太の心に波紋が広がった。 「スリムハンターのために家族が無理なダイエットをして体を壊した。みんなやめた方がいい」というSNSの書き込みがあったのだ。ログインボーナス欲しさに減量しすぎたという。ご丁寧にビフォーアフターの写真も載せていた。健康的な腕が、アフターでは骨と筋がわかるほどの細さに変わっていた。  コメントは拡散され、尾ひれがついた。 「え、こんなに痩せるの? 怖っ」「自分、体重入力誤魔化してるけど真面目な人が真に受けてやったらこうなるんか……」「発売元は、こんなユーザーを増やすのが目的なの?」「好きなメーカーだったのになー」……。  「スリムハンター」は物議を醸すようになった。無理なダイエット、拒食症……ゲームとは関連がないことまでテレビで一緒に特集され、「ゲーム=悪」という一昔前の理論が訳知り顔のコメンテーターによって語られた。  如月セアラはあおりを食ってバッシングを受け、しばらく活動を休止した。クレッセントの企業イメージも悪くなった。  「西野さんのせいじゃないっすよ」と言った開発部社員が同じ口で「テレビで叩かれているのを見るのはつらい。家族が心配して気を遣ってくる」とトイレで話していたのを聞いた。圭太の胸にささるものがあった。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加