第1章 圭太

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 書き込みの真偽の程は分からなかった。だが株主がサービス終了を言い出すには十分だった。  圭太は荒れた。会社を通してコメント主を訴えようとも思ったが、「営業妨害とまでは言えない。一個人の感想にすぎない」と法務部の社員に言われた。社内で揉めているうちに元々のコメント、アカウントも削除された。  失意のうちに我が子ともいうべきアプリがなくなり、企画が手につかなくなった。  「次の企画を出せばいい」と頭ではわかっていたが、実際は抜け殻のように営業企画部での日々を過ごしていた。主力のパズルゲームのコラボ企画、営業をしつつも、どこか張り合いがなかった。  そんなとき入社してきた開発部の森田がいいようにこき使ってくれるようになった。  ある日、屋上で休憩しているときにコーヒー片手に森田が言った。 「西野、お前また次の企画考えろ」  誰もそんなことは言ってくれなかった。周囲が腫れ物に障るように「残念だった」「好きなアプリでした」と言う中、圭太の「ゲームを作りたい」という気持ちに火をつけたのは彼だけだった。    圭太はだんだんと元気を取り戻し、一念発起して半年に1回の企画コンペに参加した。  そしてつい2時間前、今回の企画のアプリ「ヤセルゥ」を発表したのだ。
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