8497人が本棚に入れています
本棚に追加
/326ページ
一人娘の私のことを、父は溺愛している。
年齢よりも若く見られるスマートな伊達男だが、階段から落ちて骨を折るとかまったく、ちょいちょいかわいくないドジもする。
私にはとにかく甘く優しくて、大福よりも甘ったるい父親、時々、どうでもない電話を寄越したりするが、まあまあ嫌いじゃない。
母とも未だに仲が良くほのぼのしていて、私のことなど放っておけばいいだろうに。
面会時間ギリギリに病室に到着すると、顔色が良くてホッとする。本人は、なぜか照れていた。
いや、来ますけどね。心配だから。
だけど全然元気そうじゃないか。
お見舞い、明日で良かったかもしれない。
◇
「お父さん無事で何よりだよ。でもそれならそうと言ってくれたら良かったのに。急用なんて言うから、勘繰られて怪しまれたけど」
「ごめんね。言ったら心配かけると思って。でも逆に感じ悪かったね」
「いやいや、気を遣わなくていいって話」
しかし勘繰られたって、何を怪しまれたというのだろう?? まぁいいか。
「盛り上がった? いっぱい集まった?」
「集まったよ14人も。冴島君が来るなんて言うからいつもの倍だよ。ミホとかマオとかサキエとか、奴の隣キープして離れなくて」
「お、おおお。それはそれは……」
昔からわりとありがちな、よく見る光景。
バチバチ怖くて近づかないけれど。
「また飲む時誘ってね…………あっ。あれ、今何時?」
「ん? まだ十二時半だけど」
「やばい、わたし今日、印刷所で立ち合いだった、行かなくちゃだわ」
「忘れてたの? 気をつけていってきて~」
山盛りの甘いパンにはほとんど手を付けられず、慌ただしくその場を後にする。
午後はいつもお世話になっている印刷所に行くことになっていた。私とは大分長いつき合いの、どちらかというと癒しの現場。
朝も確認したし、スケジュールにちゃんと書いてあるというのに抜けそうになるとか、ダメだこりゃ。ぶつぶつ反省しながら急いで会社を飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!