3.つまりはそういう事

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 一人娘の私のことを、父は溺愛している。 年齢よりも若く見られるスマートな伊達男だが、階段から落ちて骨を折るとかまったく、ちょいちょいかわいくないドジもする。  私にはとにかく甘く優しくて、大福よりも甘ったるい父親、時々、どうでもない電話を寄越したりするが、まあまあ嫌いじゃない。  母とも未だに仲が良くほのぼのしていて、私のことなど放っておけばいいだろうに。  面会時間ギリギリに病室に到着すると、顔色が良くてホッとする。本人は、なぜか照れていた。  いや、来ますけどね。心配だから。  だけど全然元気そうじゃないか。  お見舞い、明日で良かったかもしれない。 ◇ 「お父さん無事で何よりだよ。でもそれならそうと言ってくれたら良かったのに。なんて言うから、勘繰られて怪しまれたけど」 「ごめんね。言ったら心配かけると思って。でも逆に感じ悪かったね」 「いやいや、気を遣わなくていいって話」  しかし勘繰られたって、何を怪しまれたというのだろう?? まぁいいか。 「盛り上がった? いっぱい集まった?」 「集まったよ14人も。冴島君が来るなんて言うからいつもの倍だよ。ミホとかマオとかサキエとか、奴の隣キープして離れなくて」 「お、おおお。それはそれは……」  昔からわりとありがちな、よく見る光景。  バチバチ怖くて近づかないけれど。 「また飲む時誘ってね…………あっ。あれ、今何時?」 「ん? まだ十二時半だけど」 「やばい、わたし今日、印刷所で立ち合いだった、行かなくちゃだわ」 「忘れてたの? 気をつけていってきて~」  山盛りの甘いパンにはほとんど手を付けられず、慌ただしくその場を後にする。  午後はいつもお世話になっている印刷所に行くことになっていた。私とは大分長いつき合いの、どちらかというと癒しの現場。  朝も確認したし、スケジュールにちゃんと書いてあるというのに抜けそうになるとか、ダメだこりゃ。ぶつぶつ反省しながら急いで会社を飛び出した。
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