3.つまりはそういう事

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◇◇ 「入山さんお疲れ様です。今コーヒーお持ちしますね」 「あっ、はい。ありがとうございます」  草埜印刷には時間通りに到着し、事なきを得た。二時間程の印刷立ち会い、色味等をチェックするなど諸々の作業を終え、あとはもう帰るだけ。   予定よりも早く終わって良かった~と思いながら、持ち込んだ書類等を片付けていた。 「すみません入山さん、なんか草埜常務のところにグテさんの社員さんがいらっしゃっているみたいで」 「え? gouter(うち)の社員? 誰でしょう」  なぜに? 何の件だろう。  打合せも何も聞いていないぞ? 身に覚えはないが、何かやらかしただろうかとドキッとする。 「デザイン部の小川でしょうか?」 「いえ、小川さんではないですね。背の高い男性の方です」 「え??」   ますますわからない。 「それで草埜常務が、入山さんを呼んで来てほしいと言ってまして、そちらにコーヒーをお持ちしてもよろしいですか?」  いや、コーヒーは……はい。呼んできて?   ほんとに誰よ。  デザイン部に配属されてからは草埜印刷を訪れる機会は度々あって、gouter(うち)担当の営業社員以外の人たちとも面識がある。  草埜印刷によく来ているうちの誰かなら、名前をわかるはずだよなぁ。 〝草埜常務〟というのは先代社長の次男さんで、現在草埜印刷は、長男であるお兄さんが社長を務めており、兄弟で会社を切り盛りしているのだが、草埜常務自身はそんな重役とは思えない、物腰が柔らかい気さくな方だ。 いつもにこにこと「入山さん」と声を掛けてくださるので、会うと嬉しくなる癒しの存在。考えてみれば理想の男性像って草埜常務みたいな人かもしれないな。  さて、一体誰だ。私のことを呼ぶのは。  行けばわかるかと思いながら、草埜常務のいる場所へ向かった。
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