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「失礼しまーす、常務、入山さんをお連れしました」
「ああ、どうもどうも、わざわざお呼び立てしてすみませんね」
「いえいえ、いつもお世話になります常務……え?」
草埜常務と共にそこに居たのは、私が全く想像していなかった、あの人だ。
「今ちょうど、冴島君が来てくれてね、ああそうだ入山さんもまだ帰っていないはずだと思って」
「はい、ちょうど終わったところです。……ええと、冴島さんはどうして……?」
思い当たる事は何もない。頭の中にハテナマークが広がる。
彼は彼で、なぜか少しバツが悪そうで。
「今日は仕事の用で来たわけじゃないんだ。草埜常務に挨拶に寄ったら偶然、デザイン部の社員が来てるって言われて」
「ああ、そうだったんですね」
よくわからないが、笑顔で話を合わせた。
草埜常務はいつも通りにこにこと機嫌が良くて、こちらへどうぞと、冴島君の隣に座るよう促される。
「入山さんの話をしたらさ、冴島君と同期だって言うじゃない?」
「はい、そうなんです。同期で、こう見えて同い年なんですよ?」
「どういう意味だ」
あれ、なんか、仕事の時の冴島君と違う。
「ハハ、ちゃんと同じ位の年齢に見えるよ。二人共まだまだお若い。それなら君達が入社した年は、優秀な人材ばかりで当たり年だったんじゃない?」
「うわー常務、お世辞でも嬉しいです」
「いやお世辞じゃないですよ、ほんとに」
短い時間だが、コーヒーをいただきながら雑談をする。仕事の用事ではないと言っていたが、この二人はどういう関係だろう。
私はいつも通り仕事モードに整えた顔をして、常務に合わせながら話をするだけだが、気づくと隣に座る冴島君がリラックスした表情で、話しながら楽しそうに笑っている。
は!? 思わず、声が出そうになった。
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