3.つまりはそういう事

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 🚗  フロントドアのガラス越しに、外の景色を眺めていた。特に見たいものがあるわけでもなく、ただぼんやりと。ドアミラーに映る自分と目が合うと、虚ろな表情をしていて可笑しくなる。口角を少しだけ上げた。  走るこの車を運転しているのが誰なのか、考えると妙な気分だ。溜め息を吐くわけにいかず、静かに深呼吸をする。 空の色はさらに灰色が濃くなり、走り出すとすぐに雨が降り出した。 「──降ってきたね」 「ああ、だろ?」 「結構大降り」 「電車と歩きならずぶ濡れだったぞ」 「そうだね。ありがとうございます」  たしかに、ずぶ濡れになるところだった。 傘も持っていなかったし。 会社に戻ったら、まだ今日中にやらなければならない事がいくつか残っていて、おかげで助かった。一人で帰りたいとか扱い雑とか思っちゃって、ごめんなさい。 「──草埜さんな」 「……ん?」 「元々知り合いなんだ。親の、古い友人。大学の同級生で」 「ああ、そうなんだ。だからか、随分親しいなって」  そういうことか、馨介君て。 「じゃあ、息子みたいなもの?」 「いや全然、そこまで親しくないよ。子どもの頃に会ったことがあるって程度。働き始めてから偶然わかってお互いに驚いた」  たしかに草埜常務は、私達の親世代だ。 「ただ、仙台(むこう)で企画でトラブってどうしようもない状況の時に、助けてもらった事があって、頭上がらない」 「仙台にいる時にわざわざ草埜印刷に?」 「まあ、そう。いろいろあってやむを得ず」 「……そっか、草埜常務はそういう人だよね、頼りになる。情に厚くて男気あるもん」
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