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トラブル……、遠く離れた印刷所を頼るとは、余程の理由じゃない? 冴島君も支社にいた頃はいろいろあったのかな。苦労したのかもしれない。
彼のことで聞こえてくるのは、称賛や良い話ばかりだけれど、その裏には表には出ない事情や人知れずの努力や大変さもあるわけで。彼がいくら有能でも、一人の力で何でも解決できるわけではないのだから。
「ずっと挨拶しに行こうと思ってたんだけど、やっとな。今日打合せがこの近くであったから、顔だけ見るつもりで寄ったわけ」
「なるほど。なんか嬉しそうに見えた、草埜常務」
車が、赤信号でゆっくりと停まった。
視線を感じ運転席の方を見ると、目が合った。そしてそのまま何かを思い付いたように私の顔をジッと見るので、自ずと見つめ合うような状況になる。睨み合う、だろうか。
なに? 思わず眉間にシワが寄る。
「今度草埜さんと一緒に飲もうって話があるんだけど、入山も来る?」
は?
「わたしが? どうして」
「女性がいた方が草埜さん楽しいだろ?」
「いや、いいよ行かなくて。冴島君と二人で十分楽しそうじゃない。女性がいた方がとか草埜常務そういうタイプじゃないし」
「草埜さんおまえのこと気に入ってるだろ、変な意味じゃなくて。ご機嫌で話してたもんな、あの人調子いいと目尻が下がるんだ」
「そんなの、いつもあんな感じだけど」
ご機嫌なのは、冴島君の方じゃないか。
いつもよりだいぶ口数が多い。
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