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昔からの知り合いだから〝馨介君、飲みに行こうか〟って話になったんでしょう?
仕事と関係ないのに私が行ったらおかしいじゃない。行かない。
「即行で断るなよ」
少し面白そうに、笑いながら言う。
本気なのか冗談なのかわからないな。
「この前のも、自分が誘っておきながら来なかっただろ」
「この前のって、金曜日の田中君の?」
「そう、田中のっていうか、同期会」
いやそれは! 私が誘ったわけではないんですけど──。
「ごめん、行くつもりでいたんだけど、急に父が手術することになって」
「は? 手術?」
冴島君が予想外に驚いたので、慌てる。
「ああ、違う、命に関わる急病とかじゃなくて。階段から転げ落ちて骨折して、手術も私が着く前には終わってたんだけどね」
「階段、転げ落ちたって」
「一番上からじゃないよ? 最後の四、五段をダダッて踏み外しただけだから。まだ動けないけどピンピンしてる。でもそれで、あの日は帰らないといけなくなっちゃって」
私、説明が下手すぎる。
「手術して動けない身体をピンピンとは言わないから。一番上から真っ逆さまなら、骨折では済まなかっただろうし、無事で良かったな。悪い、そんな理由だと知らなくて」
「いや、こちらこそごめん。ほんとに元気なの。でも、親たちも年取ってきたじゃない? 何が起きてもおかしくないから、親孝行しなくちゃとは思った、あ、信号青だ」
「まあそうだな」と言いながら、再び緩やかに走り出す。
「一人娘だっけ?」
「うん、そう」
どうしてそういう個人情報をいちいち覚えてんの、どんだけの情報網?
話したことを私の方が覚えていない。
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