3.つまりはそういう事

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 どうしようか、聞くなら今か、軽く話題に出すくらい許されそうな雰囲気では?  ()せばいいのに〝気になる〟が勝ち、ついあの日の話を持ち出してしまう。 「あのM町の創作イタリアンの店も、美味しかったよね。私、初めて行ったけど」 「M町?」 「そう、トラットリア……なんだっけ」 「ambre(アンバー)?」 「そう、ambre(アンバー)」  私が合コンをした、あの店のことだ。 「冴島君が綺麗な人と一緒に食事しているのを、見たよ」 「ん? ああ」 「彼女でしょう」  一瞬シンとして、そして静かに苦笑する。 「あの時、若い男とほろ酔いで楽しんでいたのはあなたでしょ」 「若い男って、こっちはただ合コンですが。年齢そんなに変わらないし」 「見りゃわかるわ」  だからそれは、気づいてたよね、あれ? 少し不機嫌な様子。やはり彼女がどうとか、聞いたらまずかったんだ。でももう、聞いてしまったから仕方がない。 「彼女じゃない」 「なんだそっか、お似合いに見えたから」 「……」  不機嫌を通り越し、またいつものキレイな無表情に戻ってしまったよ。ほらもうまた、感情が読めない。どうしよう、謝るか。 「そんなことよりさっきの件、付き合えよ、草埜さんとの飲み。まだ先だから」 「え、私は行かないよ、やだよ」 「やだよって、誘ったのが草埜さんとか他の奴なら、わかりましたってほいほい来るだろ? ほんと昔から態度悪いよな、俺には」 「は?」  俺には態度が悪い、だと? 昔から? 「そ、その言葉、そっくりお返ししますが」  そんな覚えはないと言いたいけれど、苦手意識が、顔に態度に、出ていたのだろうか。  でも嫌いなわけじゃない、ただ難しくて、わからないだけ。良かれと思ってなにか話しても、いつもこうして話が嚙み合わない。  そして話が中途半端なこの状況で、会社に到着してしまう。
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