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どうしようか、聞くなら今か、軽く話題に出すくらい許されそうな雰囲気では?
止せばいいのに〝気になる〟が勝ち、ついあの日の話を持ち出してしまう。
「あのM町の創作イタリアンの店も、美味しかったよね。私、初めて行ったけど」
「M町?」
「そう、トラットリア……なんだっけ」
「ambre?」
「そう、ambre」
私が合コンをした、あの店のことだ。
「冴島君が綺麗な人と一緒に食事しているのを、見たよ」
「ん? ああ」
「彼女でしょう」
一瞬シンとして、そして静かに苦笑する。
「あの時、若い男とほろ酔いで楽しんでいたのはあなたでしょ」
「若い男って、こっちはただ合コンですが。年齢そんなに変わらないし」
「見りゃわかるわ」
だからそれは、気づいてたよね、あれ?
少し不機嫌な様子。やはり彼女がどうとか、聞いたらまずかったんだ。でももう、聞いてしまったから仕方がない。
「彼女じゃない」
「なんだそっか、お似合いに見えたから」
「……」
不機嫌を通り越し、またいつものキレイな無表情に戻ってしまったよ。ほらもうまた、感情が読めない。どうしよう、謝るか。
「そんなことよりさっきの件、付き合えよ、草埜さんとの飲み。まだ先だから」
「え、私は行かないよ、やだよ」
「やだよって、誘ったのが草埜さんとか他の奴なら、わかりましたってほいほい来るだろ? ほんと昔から態度悪いよな、俺には」
「は?」
俺には態度が悪い、だと? 昔から?
「そ、その言葉、そっくりお返ししますが」
そんな覚えはないと言いたいけれど、苦手意識が、顔に態度に、出ていたのだろうか。
でも嫌いなわけじゃない、ただ難しくて、わからないだけ。良かれと思ってなにか話しても、いつもこうして話が嚙み合わない。
そして話が中途半端なこの状況で、会社に到着してしまう。
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