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彼がどんな人かと聞かれてパッと思いつくのは、頭が切れる美人さん、そんな言葉で。
イケメンよりも奇麗という方がよく似合う、麗しい同期の彼、冴島 馨介。
とはいえ、最後に見かけたのはいつだったろうか。二、三年は会っていない。
だから見た目はもしかしたら、少し変わってしまったかもしれないが。
*
「──詩さん? どうかしました?」
「ん? いや…………なんでもない」
振り向いて、立ち止まる。
今なんか、誰かの視線を感じた気がした。
……気のせいかな、誰の姿も見当たらない。
もう一度同僚に名前を呼ばれて、変だなと思いながら再び歩き出す。
「そういえばウタさん、聞きました?」
「ん? なにを?」
「冴島さん、本社に戻ってくるらしいです」
さえじま…………。
「冴島君か」
「冴島さんです」
「……そうなんだ。知らなかった」
ほんの少しの動揺を悟られないようにしながら、部署は? と聞き返した。
「商品企画部みたいですね。昨日、企画のリーダー達が話してるのをたまたま聞いて」
「あ、やっぱりそうなんだ」
そうきたか。
そう、くるよなぁ……。
少し前からちらほら、そんな噂はあった。
内示なのか正式に発令されたのかは知らないが、冴島君が本社に戻ってくるらしい。
楽しそうに語る小川さんと対照的に私は、胸の辺りにジワッと苦いものが込み上げた。
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