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放課後
教室の窓から差す夕陽が、時間の経過を静かに教える。
「昴、まだ帰らないの」
蓮は後ろの席で伏せている昴に声をかけた。
「まだ眠いから、もうちょっと待って」
「家で寝なよ……」
はあ、とため息をつくと、時計の方を見た。時刻は午後五時二十四分。授業が終わってから、一時間以上経過している。ここに二人以外誰もいないのも納得の時間だ。
「ねえ、もうお腹空いたんだけど」
そう声をかけても返事はなく、警戒心がまるでない、無垢な子どものように無防備な寝顔だけがそこにあった。
蓮は、自分は彼に信頼されているのだろうということはわかっていた。でも、時々それがたまらなく歯がゆいような、虚しいような気持ちになる。きっと自分は昴にとって、同じクラスの友達で、それ以上でもそれ以下でもない。そんなことは、とっくに気づいていた。自分の欲しがっているのは昴からの『恋愛』で、昴が自分にくれるのは『友愛』だということも、友達だから近くに居られるということも。それでも、望みを捨てることができない自分が嫌で、かといって諦めることもできなかった。
――好きだよ。
声は出さずに、口だけその形にしてみる。そして、手を昴の頭に伸ばす。しかし、汚い欲望を持った自分が触れるということにひどく罪悪感を感じて、蓮は、自分の手を引っ込めた。
「ばーか」
太陽はすでに、地平線の下に隠れようとしていた。
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