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初詣
吐く息が白い。気温が氷点下らしいから、当然だが。どうして元旦からこんな寒い中外にいるのだろうと、自分がバカに思えてくる。
蓮はマフラーをきつく巻き直すと、隣にいる昴の方に目を向けた。
「どうした?」
昴が問いかけてきた。思わず蓮は深いため息をつく。
「……別に」
そう言うと、昴はパンパンと蓮の背中を叩いた。
「年初めなんだから、もっと明るく行こうぜ。ほら、やるよ」
彼は、にっこりと言う表現がふさわしい笑顔を浮かべて、カイロを差し出した。
「ありがとう……」
「まあな、いつも帰り道で手がぶつかるたびに冷たいって思ってたから。蓮って他の人と比べてだいぶ冷えやすいよな」
それほどではない、と思ったけれど言わないでおいた。自分と手の暖かさを比べる相手がいる、ということを考えたくなかったからだ。
昴が手を繋ぐ相手が誰か、蓮は知っていた。でも、今だけは、一緒にいる自分のことだけを考えていてほしいと願ってしまうのだ。
空が明るくなってきて、神社の待機列が少し進んだ。
「もう少しだ。蓮は何を願うか決めた?」
「さあね」
絶対に教えるもんか。蓮は心の中でつぶやいた。
「教えろよ。俺は蓮と今年も同じクラスになれますようにって願うよ」
「願い事は、口に出したら効果がなくなるらしいよ」
「えっ、じゃあ今のは聞かなかったことにして」
昴が焦っているのがおかしくて、思わず笑い声が口から出た。
「もう、笑うなよ」
昴は照れたように言うと、蓮と一緒になって笑い出した。太陽のかけらのような笑顔が輝く。
どんなに苦しくても、辛くても、この笑顔を見ると全てを許してしまう自分に、蓮自身も呆れていた。これは麻薬のようなものなのだ。どうということもないただの笑顔なのに、こっちまで幸せな気持ちになって、中毒患者のようにそれなしでは生きられなくなってしまう。苦しくなるだけだから、もう近づいてはいけないとわかっていても、離れることはとっくにできなくなっていた。
(昴が少しでも僕のことを考えてくれますように。……出来るだけ長く、隣にいられますように)
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