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野次馬をかき分けてやってくると、男は夜の闇の中で真っ赤な炎を上げて焼け落ちる自身の家の前で呆然と立ち尽くした。そのとき、崩れた家の破片が飛んできて男の額に当たった。男は額を押さえて蹲った。
男は照明に照らされた額の火傷痕から手を放すと、松方へと拳銃を差し出した。
松方は傷痕の残る手で銃を取ると、こめかみに銃口を当て、半ばやけくそな気持ちで引き金をひいた。
空を打つ撃鉄音が頭蓋に重く響く。
松方が大きなため息をつくと、銃を持つ手が小刻みに震えた。
松方の表情を見て男は皮肉な笑いを浮かべた。
「自分の命は惜しいようだな……お前みたいに平気で人の命は奪える人でなしでも」
松方から銃を受け取ると、男は銃口をこめかみに当て、引き金をひいた。
空を打つ撃鉄。
男が松方へと銃を差し出す。
松方が男から銃を受け取る。もはや後には引けない。ここで逃げたところで身元が知られてしまった以上、この男との賭けに勝つ以外に道は残されていなかった。
松方は銃口をこめかみに当て、目を瞑り、震える手で引き金をひいた。
撃鉄は空を打った。
魂にも似た大きなため息を吐き出し、松方は銃を男へと差し出した。
男は銃を受け取りながら何かを達観したような笑みを口元にたたえて言う。
「残りあと二発……鉛の弾で頭をぶち抜くのは俺か、それともお前か……」
男は両目を静かに閉じ、安らかな表情で銃口をこめかみに当てた。
松方の発するごくりと唾を飲み込む音が緊迫した店内に大きく響く。
男が引き金をひいた。
空を打つ撃鉄音が全てを断ち切るように松方の胸を貫いた。
男は晴れやかな表情でゆっくりと目を開ける。
松方は目を見開いたまま放心していた。
松方の前に黒光りする銃が差し出された。それはまさに死を宣告する死神の手だった。
男は絞首台に立つ死刑囚に最後の祈りを捧げる神父のように慈悲に満ちた安らかな微笑を浮かべて松方を見た。
松方は震える手で拳銃を手にすると、自らのこめかみに銃口を当てようとする。
「うああああっ!」
突如、絶叫しながら松方は男にむけて銃を発砲した。
見る間に男の左胸に赤い血が広がっていく。
松方の口元が醜く歪み、狂気の笑みが浮かぶ。
「へへへ、お、俺の勝ちだ!」
胸に広がる血に手を当てる男がゆっくりと顔を上げると、その顔はなぜか松方に変わっていた。松方の顔をした男がにやりと笑うと全身が透明になり跡形もなく消えてしまった。
「そ、そんな!」
松方は驚愕し、何気なく自らの胸を見下ろした。
その左胸から流れ出す赤い血が白いシャツを染めていく。
松方は血を吐き、床に倒れた。
拳銃を握る松方の手の傷痕がライトに照らされ、何事かを囁くように妖しく光っていた。
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