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遥か隣町まで見渡すことも可能な、高い山の麓から連なる、ゆるやかな傾斜。そこに築き上げられた、緑の多い町。
三木晴翔は、そんな地方の田舎町に生まれ育った。
晴翔の父親はこの町の生まれで、大学時代は都会へ進学し、アパートで独り暮らしをしていたが。卒業と共に、町に舞い戻った。父親は、生まれ故郷であるこの町が大好きだったのだ。
母親は父親と違い、両親の代から都会生まれという生粋の「都会っ子」だったが。大学時代に父親と出会い、卒業後も遠距離での交際を続け、結婚した後にこの町に住むことになった。やはり未だに「都会への未練」があるようにも感じられたが、それでも優しい夫と一人息子の晴翔との生活に、十分に満足していた。
そんな両親の元に生まれた晴翔自身も、小学校5年生の夏を迎える現在まで、自分を育んで来たこの町に、不満を覚えたことはなかった。クラスの中には、テレビやネットで見かける「都会の姿」に憧れを覚え、「ここは田舎だよねえ、ほんと」とため息をつく生徒もいたが。例えネットで話題のドラマやバラエティが、地元のテレビ局では一週間遅れで都会とは違う時間帯に放送されていても、晴翔は「そういうものなんだ」と納得していた。それが、この町を否定する理由になるなどとは、考えたこともなかった。
そして晴翔はいつも、近所に住む3人の同級生と一緒に過ごしていた。
晴翔を含めた4人の中では一番背が高く、そして一番の「痩せっぽち」でもある、小糸一好。
4人の中で一番ふっくらした体型で、本人は大いに不満だったようだが、「関取」というあだ名を付けられたこともある、上島当留。
名は体を表すというか、優しい顔立ちをしていて、幼稚園の頃は女の子に間違えられることも多かった、最上優亜。
小学校に上がる前から、どこへ遊びに行くにも、この4人は一緒だった。それぞれの家までは歩いて10数分、チャリンコを飛ばせば3分圏内にあり、メールやLINEを送って返事を待つより、直接家まで行った方が速いくらいだった。
何か大きなイベントごとがあれば、この4人に更に何人かが加わることもあったが、4人から少なくなることは決してなかった。晴翔たちにとっては自然と、この4人が何かをする時の「基本単位」という認識になっていた。
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