魔法少女じゃいられない

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「相変わらず辛気くさいツラしてんのな」  最所カナン、現役時代に一緒に魔法少女をやっていた元パートナーは、顔を合わせるなりそんな台詞を吐いた。  カナンは音信不通の一割組の一人で、十年ぶりだかに電話を寄越し、いきなり会いたいだの抜かしてきたものだから、どうせマルチの勧誘あたりだろうと踏んだ私は、吐きかける唾の準備だけして指定された再会場所にやってきた。  大小様々な会社が入居する都内のビルの一室で、デスクを幾つか、それに複合機を一台ぶち込んだだけという、なんとも殺風景なフロア。  渡された名刺を見ると、LMSコンサルティングという社名と自分の名前しか入っていない。 「用件はなに?」  面倒なので久闊のうんたらを丸ごと割愛し、私は本題を催促した。 「いやさ。アンタ、金に困ってんだろ。今は事務の派遣だっけ? ゼロ年代最強で鳴らした魔法少女様のなれ果てとしちゃ、だいぶウケんのな」 「ぶっ殺されたいならそう言って」  カナンは腹立たしい笑みを浮かべながら、どうどうと宥めた。 「暇してんなら一緒に一旗揚げね? ってお誘いをね。新しいビジネス始めたんだ」 「勧誘なら間に合ってるわよ」 「そんな退屈なヤマじゃないよ。アンタとアタシにしかできない仕事」 「勿体ぶってないで言え」  私の苛立ちを何処吹く風、カナンはにやっと笑うと、 「もっぺん、魔法少女やらない?」  私は呆れを通り越して、一瞬だけ無になった。 「なに?」 「魔法少女。もう少女なんてお年頃じゃないけど、そこはまあご愛嬌ってことで」 「バカじゃないの」  私は鼻で笑って一蹴した。  魔法少女は遅くても十七、八歳で引退する。  成長するにつれ、どんどん魔法が使えなくなるからだ。  私とカナンはギリギリまで粘ったが、それでも十九歳の夏に引退する頃には、とんでもない苦戦を強いられてばかりだった。 「ところがどっこい、使えるんだなコレが」  カナンがぱちんと指を鳴らすと、私たちの間の空間に見慣れた畜生が湧いて出た。  白い毛玉。  魔法少女に力と変身用のグッズを配って回る存在、ラクシーだ。 「お久しぶりです、花町アイナさん」  毛玉は聞き慣れた耳障りな甲高い声で鳴いた。 「なんなの? 昔を偲んで同窓会でも始める気?」 「まあ聞きなよ。現状でもアンタ、人生の大半棒に振ってんだからさ。ここから十分かそこら無駄にしたって大差なくない」 「だから自殺したいなら手を貸そうかって言ってるでしょ」  二足歩行のゴミを複合機に括り付けて窓から突き落とす手順を頭の中で描いていると、横から毛玉がきいきい喚きたててきた。 「すみません。アイナさんにも手伝ってもらおうと提案したのはボクなんですす。だから、ボクから説明させてください」  必死にすがりついてくる毛玉を払い除けても毛だらけになりそうで、私はありったけ嫌そうな表情をこしらえながらも頷いた。
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