放課前ファイトクラブ

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 いつもなら見ることのない午前10時のニュース。    世代交代したキャラが踊る教育テレビ。    僕が見ていないだけで、学校で過ごしている間、テレビにおいて確かに存在する世界。    あぁ学校に行くのが億劫だ。    別にいじめられているわけじゃない。強がりじゃなく本当に。    ただ今日は行きたくない気分なんだ。    ホワイトボードに当てられる馬鹿でかい定規を、今日は目にしたくない、そんな気分の日があってもいいと思う。    今頃教室では、数学の授業が行われているだろう。    これまで学校を休んだことはなかった。    今、中3の冬。    もう少しで皆勤賞。    僕の列に配られるプリントは一枚余る。    机の中に入れておいてほしい。  数学準備室に取りに行くのは面倒だから。    勉強は嫌いじゃないし、数学はむしろ好きだ。    でも休む    そして数学のワークをあえて進める    休んだことによるメリットは享受せず、むしろ他の生徒よりも勉強する。    2時間ぐらい経った正午    ちょっと後悔してきた    今日の掃除当番が仲川さんと一緒だったことを思い出したからだ。    仲川さんはすごい真面目で大人しいけれど、趣味の話になると、すごくテンション上げて話してくれるんだよな。    積極的に会話が展開される訳ではないけれど、それでも話せたら何だか楽しいし。    行こうかな     行っちゃうか。学校    羽衣のように軽い制服に袖を通し、僕は外に出た。    ほぼ毎日通る商店街を歩き、学校へと向かう。    この時間に制服は浮く。    恥ずかしい。    掃除するために学校に行くっていうのも変な話だ。    今日僕は、みんなより学校使ってないのに。    そんなことを考え、左右の店を眺めながら歩いていると    対岸の歩道に、学校に居る時とほぼ同じ身姿をした仲川さんを見つけた。    ほぼ、なので違うところがある。    私服だった。    真っ黒なパーカーを着ていた。    そして、そのままゲームセンターへと消えていった。    気づけば僕も、その施設に入っていた。    平日の昼間なので、あまり人は居なかった。    多くの人が経験している世界から取り残されたか、あるいはその世界を能動的に置いてきた人たちがそこにはいた。    僕は仲川さんを探した。    プリクラコーナーか?    いや、一人で撮らないか    クレーンゲーム?    あの人は何をしに来たんだろう。    クレーンゲームの間を縫うように歩き、探した。    しかし、見つからない。    疲れた僕は耳に響く音がうるさいので、端にあるベンチで休憩することにした。    横には二人用ボクシングゲームの筐体があり、その効果音が四角い箱の中から流れていた。    しかし、人の声は何も聞こえない。    そんなことある?    あんまり仲良くない人同士で遊んでるのかな?    そんなことを思いながら、効果音が鳴り止んだ筐体を見つめ、どんなペアが出てくるのかを確かめようとした。       すると短いのれんの向こうから仲川さんが出てきた。      仲川さん、誰と遊んでいたんだろう。もしかして男子だったりするかな。    誰だろう?すごく気になる。  そんな僕の気持ちとは無縁な仲川さんはやり切った顔をしている。    仲川さんの後から、人が続いて出てくることはなかった。  僕は少し安心した。  、と同時に不思議に思った。二人用だぞ、一人ってどうやって遊ぶんだ?    シャドーボクシングでもしてたの?    彼女は僕に気付き、それとなく会釈をしてくれた。    僕は嬉しくなって声をかけた。   「あ、奇遇だね」   「そうだね、こんな所で会うとは思わなかった。もう学校終わったの?制服着てるけど」    仲川さんは焦り気味の表情を浮かべながら、僕の服を指差しそう言った。   「いや、これから行く予定だったんだよね」   「予定だった?」   「うーん、いやその何て言うか」    何て言えばいいんだろう    あまり間を空けすぎても変だしな、正直に言うか   「掃除しに行こうと思って」   「掃除?そんなに綺麗好きだったんだ」   「まぁね。仲川さんはこんなところで何してるの?」   「今日は朝起きるのが面倒くさくて、サボったんだ」   「そうなんだ。僕も今日は一日サボるつもりだった」   「私もそうしようと思ったんだけど、昼過ぎるとやることがなくなってきちゃったんだよね。ゲーセンも飽きてきたし」   「あー分かる。僕もそう思って、掃除だけをするために学校行くことにしたし」   「それはちょっと変だと思うけど」   「え?そうかな。まぁ確かにちょっと変かもしれない」    会話の切れ目で間が開く    その間を埋めようと、僕は会話を続けた。   「仲川さんはこれからどうするの?」   「うーん。暇だからね。悩んでる」    ここだ!と思い僕は勇気を絞り出した。   「じゃあ一緒に掃除しに行こうよ」   「え?」   「いや、やっぱ今のなし!変だよね、掃除だけしに行く時点で変なのに、さらに二人で行くなんてもっと変か」    しどろもどろになりながら僕は発言の撤回を試みた。    しかし、その必要はなかった   「行こうか」    仲川さんはまっすぐに僕を見て、そう言った。   「え、本当に?」 「うん、本当に。家帰って制服に着替えてくる。待ってて」   「う、うん」    自分から提案したくせに、いざその提案通りに事が進む様子に僕は少し混乱していた。    10分後    ゲームセンター前で待っている僕の元に、いつもの仲川さんがやって来た。    そしてそのまま、学校へ向かった。    道中   「そういえば、今日って掃除する場所、一緒なんだよ?知ってた?」    僕は、ちょっと攻めた    しかし、仲川さんは特に驚きもせず、こう返答した。   「知ってたよ。だから行こうって思った」    とても綺麗なカウンターだった。      
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