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「趣味?」
それ、と胸元を叩く。コーヒーの香りとクリスマスソングが漂う店内へ入ってすぐ、清水のブルーセーターに垂れた違和感へ反応した。
「もらったんだ」
早めの誕生日で、と清水は答える。
「八月でしょ誕生日」
「まあね。でも前借り」
話しながらマフラーやコートを脱いでいく。駅ビルに入っているカフェは換気が悪いけれど、季節によってはありがたい。お冷やとおしぼりを持ってきた店員に「ホットコーヒー、二つ」とピースサインをすると、清水はその違和感をすっと撫でる。
「変かな」
「別に。なんだっけほら、テレビ局みたいな名前のアイドルも付けてるって」
一拍考えて、気付いたように吹き出す。
「相変わらず世相に疎いね」
ひげもなく黒髪の爽やかな清水を見るのは十年ぶりだがこそばゆい。旧友は一瞬で自分を昔に戻してくれる、と中学の担任が言ってたっけ。本当、そんな感じだ。
「遠かった?」
「まあ」
清水の指定した駅は最寄りから1時間半はゆうにかかった。
「で、話ってなに」
「……相変わらずだな」
「二回も言わないでよ」
ころころ変わってたまるか、とおしぼりで手を拭いた。高校を卒業して、一度成人式で再会したっきり。節目節目で連絡をとっていたとはいえ、顔を合わせるのはしばらくぶりだ。
「真珠のネックレスなら買わないし、宗教なら私が神なんで」
「勧誘とか売りつけだと思って来たの?」
違うの、という意味を込めて眉を上げる。はあ、と大きくため息をついた清水はニヤリと口角をあげた。
「なに、気持ち悪い」
「いや、ごめんこっちの話。今日はただ会いたかっただけだよ」
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