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頭のてっぺんから爪先までスキャンした結果、特に危険な武器を隠し持っている様子はなかったし、肉体の組成にしてもこの星のどこにでもいる霊長類ヒト科の男児に過ぎなかった。
チッペニ星人は再び操縦席にあるいくつかのボタンを押した。すると、帽子型UFOから店主の脳へと電波が送信され、店主がロボットのように不自然に口角を上げて微笑み、少年に向けて口を開いた。
「イタズラもほどほどにして、おうちにお帰り」
いくつかある子供に対する対応パターンのうち、その場に最も適した言葉を選択してチッペニ星人は男の口を動かして応じた。地球人の大人が子供を諭すときの典型的な口調を真似たのだが、チッペニ星人にとっては、侵入者に対するやんわりとした退去命令だった。
少年は首を左右に振ると言った。
「ぼうしをくれないと、うつよ」
見た目に似ず、なかなか頑固な少年のようだった。
チッペニ星人は更なる交渉に面倒くさくなりかけて、一瞬、殺人光線を照射してこの少年を殺してしまおうかと考えたが、すぐに思い直した。
下手に殺人を犯せば死体の処理に困るし、第一、平和的に地球を征服するという彼等の計画に反する。かといって、相手の要求をのんで帽子型UFOを差し出せば、たちまちオモチャにされて壊されかねない。見た目はただの帽子でも、実際には一台の製造に三ヶ月も要する精密機械なのだ。手荒にされては困る。
しばし考えた後で、チッペニ星人は操縦席のボタンを操作した。
すると、操られている店主の男が「ちょっと、待っててね」と少年に発音して店の奥に行き、冷蔵庫から銀紙に包まれた丸いチョコレートを持って戻ってきた。そして、それを少年に差し出す。
「じゃあ、これを君にあげよう。おうちに持って帰って食べなさい」
模範回答だった。なかなか機転の利いた対応ではないかとチッペニ星人はUFOの中で触手状の小さな腕を組み、得意げに笑った。
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