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お山へ帰ろう
ミースケは人間の手で鍵を握ると、引き出しの鍵穴へ差しこみました。鍵を回すとカチリと鳴って、引き出しがひらきます。中には丸い軟膏ケースがありました。
「これだ! お母さんのケガを治すお薬!」
「やったな!」
「よし、帰るぞ」
警察官姿のタイチは小屋の裏手に面した窓をあけました。兄弟達は急いで窓をくぐり、柵を次々と乗りこえます。タヌキではこえられない柵も、人間の手足ならよじ登ることができるのです。少年姿のミースケは背が低いので、お兄ちゃん達が引っぱりあげてくれました。
庭にいた犬達が気がついて「ワンワン!」と騒ぎます。三兄弟は柵の外へおり立つと、タヌキの姿に戻って走りました。犬の声がぐんぐん遠ざかり、お母さんの待つ巣穴を目指してかけていきます。
「追いかけてこないかなぁ」
お薬のケースを口にくわえたまま心配そうにミースケが言うと、タイチが答えました。
「大丈夫だ。銃の所持許可証が見つからない限り、猟師はタヌキを追えない」
「きょかしょうって、そんなに大事なものなの?」
「ああ、それがないと警察に捕まって、二度と銃を持てなくなってしまうんだ」
「そうなんだ。でも、車に置いてあるならすぐに見つけてボクらを追ってきちゃうよ」
「いいや、すぐには見つからないね」
隣りを走るジローが自信たっぷりに言います。
「どうして?」
「さっき、俺が車から盗んで猟師小屋の床下に隠しておいたからさ」
「ええっ!」
「ジローは意地が悪いよな」
「タイチ兄ちゃんだって協力したくせに!」
笑い合うタイチとジローを見て、ミースケは目をぱちくりさせました。そういえば、お兄ちゃんタヌキふたりはケンカ別れしていたはずです。いつ仲直りをしたのでしょうか?
「タイチ兄ちゃん、新しいお山を探しにいったんじゃなかったの?」
「俺達が心配で放っておけなかったんだよな!」
からかうような口調で言うジローに、タイチはムッとして返します。
「お前こそ、お父さんの仇討ちをするんじゃなかったのか?」
「今日はこのくらいで勘弁してやるのさ」
「ミースケが心配で放っておけなかったんだよな?」
得意げに胸をそらすジローを、今度はタイチがからかいます。
ミースケは、お兄ちゃんタヌキの顔を交互に見て聞きました。
「ボク達、これからも夕焼け山に住んでいいの?」
「ああ、きっとここで生きていけるさ」
夕焼け山は、実り豊かな住みよいお山。
夕焼け山の三タヌキは、三匹そろって一人前。
時には危険もあるけれど、ミースケはこれからも兄弟で助け合って暮らしていくことでしょう……。
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