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そのまま、30分ほど2人で黙って空を見上げていたが、流星を見つけることはできなかった。
「せっかく来たのに見られなかったな」
彼女は首を回しながら言った。
「流星群っていうから、いくらでも見られるのかと思ってたよ」
僕も痛くなった首を揉みながら言った。
「どうして来たの?」
僕はなんとなく聞いてみた。
「だって、そっちは見えてるみたいだったから…」
彼女は目を伏せて答えた。
「でも、日記では会わないことになってたんだよね」
僕は言ってしまってから、しまったと思った。
「そうなんだよね。電話で話すだけのはずだったんだけど、どうして来ちゃったのかな…」
彼女の顔は曇っていた。
「日記を読んで、大好きだった真帆のために私ができることが見つかったって思って、生きがいみたいに思ってやってきたはずなのに、この頃、だんだん真帆のことを忘れてしまってる気がするの…」
彼女の声はだんだん小さくなっていった。
「それは、仕方ないんじゃないかな。時間が癒してくれるってよく言うけど、そういうことなんだよ、きっと」
僕は彼女から目を逸らしたまま言った。
「私、初めて真帆に会った日、髪をなびかせて走っていく後ろ姿に一目惚れしたの。そのときはそんなふうに思ってなかったけど、教室で本を読んでいる真帆の横顔を見たり、ページをめくる指先を見たり、好きな本の話を夢中で話す声を聞いたり、お弁当を食べる口元を見たりしてるうちに、ああ、あれは一目惚れだったんだな、これは恋なんだなって思った。変かな」
ああ、やっぱりそうだったんだなと僕は思った。なんとなく、そんな気はしていた。
「変じゃないよ。僕も初めて西澤のこと綺麗だなって思ったのって、髪をなびかせて小学校の門を出ていく後ろ姿を見た時だったし」
彼女は驚いた顔をして僕を見た。
「変なのはそこじゃないでしょ」
そう言われて、彼女が言っている意味がわかった。
「あ、そうか…。ごめん。恋敵が女の子って変なのかな。なんでだろう。変だと思えなくて」
それを聞いた彼女は、呆れたように笑って言った。
「覚悟を決めて話したつもりだったのに、馬鹿みたいじゃない」
彼女はベンチから立ち上がった。
「私、あなたに嫉妬してたのよ。真帆のお母さんに、隠してあった日記のことを聞いて、それを読んであなたのことを知って、本当に悔しかった。私の方がいつも真帆と一緒にいるのに、私の方が真帆のことずっと好きなのに、それなのに、真帆は私よりあなたのことが好きなんだって」
彼女は僕の方を振り向いた。
「だから、あなたに日記の再現をやらせて、やれないことを確かめてやろうと思ってた。こんなの、ただの理想で、実際はそんなに素敵な人なんかじゃないって、ヒーローでも王子様でもないって」
そうか。だから、初めて会った時の彼女はあんなに挑戦的な目をして僕を睨んでいたのか。
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