第六章

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去っていく彼女の背中を見つめながら、僕は思った。 西澤にとっての心残りは僕のことなんかではなくて、彼女のことだったのでないだろうかと。 負けず嫌いで、涙もろくて、意地っ張りで、強がりな彼女が、西澤のいない世界で、振り向かないで、うつむかないで、前を向いて生きていけるかどうかが一番の心残りに違いないと思った。 だから西澤は、僕と彼女を引き合わせてくれたのではないだろうか。 西澤真帆という小説家の文章が、本となって世の中に出ることはなかったけれども、その文章は僕と彼女を出会わせてくれた。 いつか彼女が言っていたように、天国で西澤に会うことができたら、西澤は僕を褒めてくれるだろうか。彼女と一緒に西澤の心残りをたどったことを喜んでくれるだろうか。 もし、天国で西澤に会うことができたら、僕は西澤に言いたい。僕達にあの日記を残してくれてありがとう、心残りを残してくれてありがとう、と。
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