第二章

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「真帆は私のすべてだったの」 彼女は観覧車から外を見ながらつぶやくように言った。 「私が小学5年生のときに父が再婚して、その父よりも10歳も若い再婚相手が、私に自分の母校の女子校を受験させたいなんて言い出して、中学受験なんて考えてもいなかった私は、それから塾やら家庭教師やらで勉強漬けにされて、友達と遊ぶ時間もなくなって、中学には受かったけど、もう疲れ果てて空っぽって感じだったの。中学の入学式の朝も、希望とか期待とかちっともなくて、行かなきゃいけないから、ただそれだけの気持ちで学校に向かってた」 僕はただ黙って彼女の話に耳を傾けた。 「そんな気持ちでだらだらと歩いていた私のことを、小走りで抜き去って行った女の子がいた。長い髪をなびかせて、風のように他の生徒たちの間をすり抜けて行った」 僕は小学生のときの西澤を思い出していた。長い髪をなびかせて、校門を小走りで駆け抜けていく西澤の後ろ姿を。 「教室に入ってみたら、その子が私の前の席に座って本を読んでた。それが真帆だった」 彼女は遠い目をして、その日の西澤を思い出しているようだった。 「私は真帆と友達になりたくて、一生懸命に話しかけたわ。でも、真帆はいつも本を読んでいて、話しかけても、あまり返事をしてもらえなかった。それでも、私は話しかけ続けたの。そのうちに、昼食の時だけは本を閉じて、私と話をしてくれるようになった。彼女の好きな本の話を聞いては、私も同じ本を読んだ。真帆の真似をして髪を伸ばしたこともあったけど、真帆みたいにはなれなかったから、すぐに切った。真帆は私には短い髪の方が似合ってて素敵って言ってくれた」 夕焼けに照らされた彼女は、少し涙ぐんでいるように見えた。 「真帆のことばかり見てたから、他の友達はいなかった。私が中学に入って間もなく、弟が生まれて、そしたら親にもかまわれなくなった。でも、それはそれでよかった。真帆のことだけ考えていればよかったから。でも、真帆が亡くなって、私はまた空っぽになった。どうしたら真帆のところに行けるかなってそんなことばかり考えて、ただ、無気力に過ごしてた。そんなときに真帆のお母さんから連絡があって、あなたのことが書いてある日記を読んだの。だから、あなたを探して、日記を実現したいって思った。そうしたら、天国で真帆が喜んでくれるかなって、天国で真帆に会った時に褒めてもらえるかなって…」 僕はぎくりとした。彼女は自殺を考えているのかもしれない、そう思ったから。
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