第三章

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第三章

1ヶ月ほど経ち、11月も半ばを過ぎた頃、彼女から連絡があった。次の日曜日に駅で待ち合わせということだった。 少し遠出になるからよろしくね 彼女からスマホに届いたメッセージは、そんな言葉で締め括られていた。僕はどこに行くのか知らされないまま、その日を迎えた。 駅で会った僕達は、下り電車に乗った。 僕達が電車を降りたのは、1時間半ほど電車にゆられ、県境を越えた先のターミナル駅だった。 「僕達はここで何をするの?」 僕はここで初めて、そう聞いてみた。 「映画を見るのよ」 彼女はそう言って、スマホの地図を見ながら歩き出した。 「映画ならこんな遠くまで来なくても見られるのに」 僕が言うと、彼女は振り返って僕をきっと睨んだ。 「ここじゃなきゃ、やってないのよ。やっと見つけたんだから」 彼女はそう言って、また歩き出した。 また出会った日の彼女に戻ったなと僕は思った。 映画館に着くと、僕達は真ん中あたりの座席に座った。100席あるかないかの小規模な映画館は、そこそこ客が入っていた。 映画は何年か前に流行った「亜美とミミ」という物語だった。確か、原作者の増田亜美と飼い犬のミミとの出会いから別れを描いた実話で、当時、とにかく泣けると話題になっていた。 僕が映画館で見たことがある映画といえば、子供の頃に親に連れて行かれたアニメ映画か、高校の時に友人に誘われて行ったアクション映画ぐらいだ。そんな僕が女の子と並んで、泣ける映画を見ることになるなんて、思いもしなかった。 映画は、双子の妹が小児がんで亡くなって元気がなくなった亜美のために、ゴールデンレトリバーの子犬を飼うところから始まった。亜美は耳の垂れたゴールデンレトリバーの子犬をミミと名付けて可愛がった。ミミは亜美と姉妹のように育った。亜美は毎日のミミとの散歩をかかさず、眠るのも一緒だった。やがて亜美は大人になり、働き始め、恋人ができ、ミミと散歩をしたり眠ったりすることはなくなった。亜美が結婚して家を出る日、歳をとったミミはもう立ち上がることもできなくなっていた。結婚式を終えた亜美の両親が家に帰ってくると、ミミはぐったりとして虫の息だった。連絡を受けた亜美が駆けつけると、その足音を聞いたミミは、最後の力を振り絞って立ち上がり、亜美を迎えた。亜美はミミを抱きしめ、その腕の中でミミは息を引き取った。亜美も亜美の両親も亜美の夫までもが一緒に大泣きし、感動的な音楽が流れ、映画は終わっていった。
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