第三章

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子犬はかわいかったし、亜美がミミに支えられながら悲しみを乗り越えて、大人になっていく過程もよかった。亜美を迎えるために立ち上がったミミの姿は感動的で、少し目が潤んだけれど、涙が流れ落ちるところまではいかなかった。スクリーンに流れるエンドロールを見ながら、でも、亜美は次の日には予定どおり新婚旅行に出かけるんだろうな、と僕はそんなことを考えていた。 やがて映画が終わり、明かりがついた。僕は横に座っている西山さんを見て、驚いた。 彼女は顔を涙でぐしゃぐしゃにして泣いていた。 「何よ、見ないでよ」 僕が見ていることに気がついた彼女は、慌ててポケットから出したハンカチで顔を拭った。それでも、涙は次から次へと溢れ出てくるようだった。 他の観客たちが立ち上がって出ていく中、僕は彼女が泣き止むのを、ただ黙って待ち続けた。 気がつくと、映画館には僕と彼女だけが残されていた。 僕は彼女に気づかれないように横目で彼女をちらりと見た。ようやく泣き止んだらしい彼女は、ポケットにハンカチを入れて立ち上がった。 「ごめん、行こう」 彼女はそう言って出口に向かった。僕もその後ろをついて行った。 映画館を出て、僕達はあてもなくぶらぶら歩いた。 「本当はあなたが泣くはずだったのよ」 彼女がぽつりと言った。 「あなたが泣いて、真帆がポケットからハンカチを出して、あなたの涙をふいてあげるの。それなのに、あなたは泣かないし、私は涙が止まらなくなっちゃうし…。うまくいかないな」 彼女はがっかりしているようだった。僕は、彼女を元気づけるような、うまい言葉が見つからなかった。 「大体、あなたが泣かないのがいけないのよ」 彼女は今度は怒り出してしまった。 そりゃ、僕は西澤の理想の僕ではないんだから、仕方ないだろ…と思ったが、更に彼女の怒りを助長するような気がしたので、黙っていた。 「泣いて怒ったらお腹すいちゃった。あそこでご飯食べましょ」 彼女が少し先のファミレスを指差した。
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