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第四章
「クリスマスイブの夜は予定を空けておいてね」
今回は、今までより早めに西山さんからメッセージが届いた。クリスマスイブなので、こんな僕でも何か予定が入ってしまうのではないかと考えてのことだと思うが、そもそも僕にはクリスマスイブに一緒に過ごす恋人などいないので、そんな心配はいらなかった。
クリスマスイブの日は大学の授業があったので、行き先の駅で待ち合わせをした。そこは、ケヤキ並木のイルミネーションで有名なところだった。
今回はイルミネーションか…。遊園地に映画にイルミネーション。どれも型通りのデートコースという感じがした。そんなデートに憧れて、けれど、誰ともすることなく16歳で死んでしまった西澤のことを思うと、心が痛んだ。西澤から告白されたあのとき、ホワイトデーに返事をして欲しいと言う西澤の言葉を遮ってでも、僕も好きだと即答していたら、そして、そのまま2人で連れ立って歩いていたら、それは西澤にとって、初めてのデートになっただろうか。もしそうしていたら、西澤の未来が変わって、次の日に西澤が死んでしまうことはなかったのではないだろうか。僕は時々、そんな罪悪感のような後悔の気持ちに囚われるのだった。
クリスマスイブの夜、僕は待ち合わせの時間の10分前に着いて、西山さんを待った。
彼女は時間を20分ほど過ぎてやってきた。
彼女はダウンコートに手袋をはめ、ニット帽をかぶり、マフラーで顔の半分を覆っていた。
「どうしたの?」
かろうじて見える彼女の目を覗き込むと、少し潤んでいるように見えた。
「風邪ひいちゃって」
彼女はそう言ってマフラーを首元まで下ろした。声は掠れて、苦しそうだし、顔は赤くて相当熱がありそうだ。
「なんで知らせてくれなかったの?」
イルミネーションなんて、冬中やっているんだから、また治ってから来ればいいのに、と僕は思った。
「知らせたら、今日はやめようって言うでしょ」
彼女はそう言って、イルミネーションの方に歩き出したが、その足は少しふらついているように見えた。
「今日はもう帰ろう。イルミネーションはまた今度にすればいいよ。家まで送るから」
僕は彼女の腕を掴んで引き留めた。
「だめよ。今日じゃなきゃだめなのよ。クリスマスイブじゃなきゃ」
そう言って、彼女は僕の腕を振り払った。
彼女は泣きそうな顔をしていた。
彼女の気は変わりそうもなかった。
僕は辺りを見回した。道を渡った向こう側にドラッグストアが見えた。
「ここで待ってて」
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