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僕は近くにあったベンチに彼女を座らせて、ドラッグストアに走った。以前、風邪で熱が出たときに解熱剤が入った風邪薬を飲んで、よく効いたのを覚えていた。それを飲むのが今の彼女にいいのかどうかはわからないが、熱が下がれば体が楽になるのは間違いないだろうと思った。
僕は薬と水を買って、彼女のところへ急いだ。横断歩道の信号が赤だったので、立ち止まって道の反対側の彼女を見ると、知らない男が2人、彼女を挟んで座っていた。やがて、男の1人が彼女の腕を掴んで立ち上がらせた。僕は信号が変わると誰よりも早く飛び出して、イルミネーションを見る人でごった返した歩道を走った。
彼女と男達は口論をしているようだった。
「いいじゃん、一緒に飲もうよ」
「人を待ってるんです」
「誰も来ないじゃん、行こうよ」
そんな言葉が聞こえてきた。周りの人たちは困っている彼女を横目で見ながら通り過ぎていく。
「その手を離せ!」
僕は走ってきた勢いで彼女の腕を掴んでいた男を突き飛ばし、彼女の手を握って走り出した。後ろから何か叫んでいるのが聞こえたが、振り向かずに走り続けた。
しばらく走ったところで路地に入って立ち止まった。彼女は息を切らして苦しそうだった。
「ごめん。走らせちゃって」
僕は肩で息をしながら謝った。
「私こそ、ごめん…ていうか、ありがとう」
彼女はそう言った後、咳き込んだ。
「あ、これ、水」
僕は水のボトルを渡した。
彼女は受け取った水をごくごくと勢いよく飲むと、僕に差し出した。
「あなたも。走ったから喉乾いたでしょ」
そう言われて、確かに喉がカラカラなことに気づいた。
「でも…」
ぼくはためらった。女の子が飲んだボトルに口をつけていいのだろうか。
「私は気にしないけど」
彼女はそう言って、もう一度、僕に水を差し出した。
そう言われても、と思いながら受け取ったが、これは彼女が薬を飲むための水だったことを思い出し、彼女に薬の箱と一緒に差し出した。
「先にこれ飲んで。熱が下がるから楽になると思う」
彼女は小さく笑うと、それを受け取った。
「わかった。ありがと」
彼女は僕の買ってきた薬を飲んだ。
「あ、ごめん。水、全部飲んじゃった」
彼女が空のペットボトルを振って笑った。
それを見て、僕はなんだかほっとした。
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