第四章

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「そして、真帆は高校1年生の秋、あなたと再会した。その再会を真帆は運命だと思った。そして、あなたを運命の人だと思ったの。それから真帆は、K君との日々の日記を書いた。日記というより小説だったのかも」 僕が読んだことのないその日記のような小説のようなものを、西澤はどんな想いで書いていたのだろうか。 「僕、それ読んだことないんだけど」 返事はわかっていたが、言ってみた。 「だめよ。読んだらつまらないわ」 予想どおりの答えだった。でも、つまらないってどういうことだろう。読んだ方がその通りにやれるのに。結局、今日だって、西澤の書いたとおりにはやれていないに違いない。 「なんだか、元気になってきた。外を歩きましょ」 彼女が立ち上がった。 「薬で熱が下がったから元気になった気がするだけだよ。熱が下がっているうちに帰ろう」 僕も立ち上がった。 店を出ると、彼女は駅と反対方向に歩き出した。 「そっちじゃないよ」 僕は呼び止めた。 「いいじゃない。少しだけ歩こうよ。あっちまで行って戻ってくるだけだから」 彼女はそう言って、どんどん歩いていく。 「だめだよ。また熱が上がるよ」 僕は彼女に追いついて言った。 「少しだけよ。行って戻るだけ。それに、もし私が歩けなくなったら、またヒーローが助けてくれるでしょ」 彼女はそう言って、僕の手を取った。 「私を真帆だと思って、少しだけこうして歩いてよ」 彼女は僕の手をひいて歩き出した。 僕は彼女のまだ少し熱い手の柔らかさにどきどきしていた。 僕達は手をつないだまま、イルミネーションの下を歩いた。 西澤の日記では、僕と西澤は手をつないで歩いたのだろうか。彼女は日記を再現するために僕の手を取ったのだろうか。 僕は知りたい気持ちもあったが、やめておいた。このまま、彼女と手をつないだまま、この光り輝く道を歩きたかったから。 そうして、今回のデートは終わった。  「次は電話だから。1月4日の夜1時に電話するからね。なぜかはわかるわよね」 帰り際、彼女はそう言って帰っていった。
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