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「こっちは全然見えないよ」
「出来るだけ広い範囲をぼんやりと見るのがいいらしいよ。目が慣れると、星がよく見えるようになるよ」
僕は話しながら、空を眺め続けた。
「あっ」
今度はさっきよりもはっきり、星が流れるのがわかった。
「見えたの?私、まだ見えてない。ずるい」
彼女が電話の向こうで怒ってるようだった。
「そう言われても…」
僕だってネットで調べて見ているだけの素人だ。アドバイスのしようもない。
空を見上げ続けて首が痛くなってきたので、ベンチに横になった。より空がよく見えた。彼女との会話を忘れて、しばらくそのまま見上げていると、またひとつ星が流れた。
「あ、流れたよ」
僕は空を見ながら言った。
「もう、私はまだひとつも見てないのに」
その彼女の声は耳元からでなく、足元の方から聞こえた。僕はベンチから起き上がった。そこには彼女が立っていた。彼女は僕の横に座った。
「どこを見たらいいの?」
彼女が言う。
「できるだけ、空全体を広くぼんやり見るといいんだって。しばらくすると目が慣れてくるよ」
僕も空を見上げた。
「こんな遅い時間によく来られたね。お父さんとか心配しない?」
僕は夜中に娘を連れ出す悪い男と思われてしまうのではないかと思った。
「大丈夫。多分、出てきたこともバレてないから。私、離れに住んでるの。弟が生まれた時に、夜泣きとかで私の勉強の邪魔になるだろうからって庭に離れを建ててくれたんだよね。まあ、厄介払いされたって感じかな」
その言葉に驚いて、僕は彼女の顔を見た。
「うち、愛はないけどお金はあるんだよね」
彼女はふざけた口調で言った。
僕はなんて言ったらいいのかわからなくて黙っていた。
「そんな顔しないで。笑うところよ、ここ」
彼女は僕をちらっと見てから、また視線を空に移した。
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