第一章

3/5

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
「私は西山美穂(にしやまみほ)。真帆の…友達」 彼女はかばんから1冊のノートを取り出した。 「このノートは、真帆のお母さんが真帆が二十歳になるのをきっかけに、真帆の部屋を片付けていて見つけたものだそうよ。本棚の裏に隠してあったと聞いてるわ。そして、その中身はK君という男の子とのデートの日記だったの。私はそのK君はあなただと思ってる」 K君?確かに僕の名前は圭だけど…。デート?僕と西澤はデートなんてしたことがない。この公園のベンチで話をしたことがデートになるだろうか。K君というのは本当に僕のことなのか? 「K君が自分なのかわからないって顔ね。私はこの日記を見た真帆のお母さんに聞かれたの。真帆に付き合っている人がいたことを知ってるかって。真帆のお母さんは、真帆に付き合っている人がいたことも知らなかったから、お葬式の連絡もしなかったし、もしかしたら、その人がまだ真帆が亡くなったことを知らないでいるんじゃないかって言ってた。だから私は、真帆が小学生の時から書き続けてきた普通の日記と、この隠されていた日記を読み比べたり、卒業アルバムを見たり、当時の同級生に話を聞いたりして、あなたを探した。そして、小学5年生のときに同じクラスだった鈴木圭(すずきけい)くん、あなたにたどり着いたの。真帆の小学生の時の日記に一度だけ、圭くんのことが書かれていたから」 僕は彼女の話を聞きながら、やはり、それは自分ではないと思っていた。確かに僕は鈴木という苗字がクラスに3人いたせいで、みんなから圭くんと呼ばれていた。西澤も僕のことを圭くんと呼んでいた。でも、ホワイトデーのあの日、西澤は来なかった。僕は振られたはずだ。だから、僕達は付き合ってなんかいない。日記に書けるほど、デートを重ねたりはしていないのだ。 「それは、多分、僕じゃないよ」 僕はそう言うしかなかった。どう考えても、それは僕ではないから。 「私も、自信がなかったから確かめたの。わざとあなたの前に本を落として。そして、あなたは拾ってくれた。真帆にそうしたように」 それは確かにそうだった。彼女の本を拾った時、西澤のことが一瞬、頭をかすめた。 「でも、僕と西澤はデートなんかしたことないし、付き合ってもいなかったし…」 何だか、悪いこともしていないのに言い訳をしているような気分だった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加