第一章

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「待って。私の話はまだ終わってないわ」 西澤とは対照的に短く切った髪に気の強そうな瞳の彼女は、僕をにらみつけて言った。 なんだよ。僕が何か悪いことしたって言うのかよ。 そう思いながらも、僕はまたベンチに戻った。 「あなたにお願いがあるの」 そう言って、彼女はその手の中のノートを見つめた。 「一緒にこの日記の創作の部分の再現をしてほしいの」 「再現?」 彼女の言っている意味がよくわからなかった。 「再現っていうのは少し違うかな。実現と言えばいいのかもしれない」 つまり、西澤の書いた架空の日記のとおりにデートをしたいってことか? 「この日記は彼女の願望の日記だって言ったでしょ。つまり、これは彼女の心残りのかたまりなんだと思うの」 心残りのかたまり…。自分が死ぬことなんて考えてもいなかったであろう西澤が書いた、願望の日記。もし生きていたら、現実になったかもしれない想像の日記。それを実現させたいということか。 「そんなこと、西澤が望んでるかな」 僕は思わずつぶやいた。 「もしかしたら、望んでないかもしれない。でも、真帆のために何かしたいの。私、真帆と中学で出会ってから、本当に幸せだったから。真帆といれば毎日楽しくて、ただ真帆に会いたくて学校に行ってた。真帆に会えるから、毎日生きてた。真帆がいなくなって、何もやる気がなくなって、ただ、なんとなく生きてきた。でも、この日記を読んで、私にもやれることがあるんじゃないかって思ったの。だから、お願い。お願いします」 彼女は頭を下げた。 僕には断ることなんてできなかった。 僕は彼女に言われるままに、日曜日に遊園地で会う約束をした。
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