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列は順調に進んでいった。それに従って、彼女の顔は次第に青ざめていった。
「ねえ、本当は乗りたくないんじゃないの?無理しなくてもいいと思うよ」
もう、乗り場は目の前だった。次には僕達の番が回ってきそうだった。
「そんなことないわよ。こんなの、なんてことないわよ。馬鹿にしないでよ」
彼女は血の気の失せた顔で答えた。
ジェットコースターが戻ってきた。乗っていた人たちが降りていく。
「お待たせいたしました」
乗客は前から順に係員に誘導されていく。
青ざめた彼女の手は小刻みに震えていた。呼吸も荒くなっている。
「さあ、どうぞ」
係員が彼女に言った。
彼女は動けないでいた。
「やっぱり、乗るのやめます」
気がつくと僕は、彼女の腕を掴み、行列に並んで進んできた通路を引き返していた。
ジェットコースターの乗り場から離れたところで、彼女は僕の手を振り払った。
「何よ。勝手なことしないでよ。私は平気なんだから。本当に平気だったんだから」
怒っている彼女の頬はもう青ざめてはいなくて、僕はほっとした。
「僕、苦手なんだ。ああいうの」
僕はそう言って、ジェットコースターに背を向けて歩き出した。
「何よ。根性なしね。ちっとも日記のとおりにできないじゃない。全然、真帆の理想のデートができないじゃない」
彼女の声が後ろから追いかけてきたが、僕は立ち止まらなかった。
「他にはないの?日記に書かれてること」
追いついてきた彼女に聞いた。
「具体的に書いてあるのはこれだけなの。あとは、日が暮れるまで楽しく遊んだって書いてあるだけ」
彼女は少し困ったように言った。
「じゃあ、日が暮れるまで、楽しく遊ぼうよ。あ、僕、あれ好きなんだ」
僕はゴーカートを指差して歩き始めた。
「ゴーカートも怖い?」
僕はからかうように言った。
「馬鹿にしないでよ」
彼女は僕を追い越して、ゴーカート乗り場に向かっていった。
そして、僕達は閉園の時間が近づくまで、楽しんだ。
「最後にあれに乗りたいな」
彼女が指差したのは観覧車だった。
「高いのは怖くないんだ」
「怖いのは高いところじゃなくて落ちるところなのよ」
彼女が言った。
「僕も同じだ」
僕もそう言って、観覧車に向かった。
西澤とのことがあってから、女の子と関わることを避けてきた僕が、こんなふうに女の子と遊園地でデートしてるということが信じられなかったが、とても楽しかった。とげとげしかった彼女も今は楽しそうに笑っているのが、なんだかとてもうれしかった。
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