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次の日の朝、起きた時は、むしろ晴れやかな気分であった。
当然である。
死神がその鎌を当てているのは、私ではなく、婚約破棄を告げようと待ち構えておる王子なのだから。
ただ登城の時刻が近付くにつれ、その気分は薄れていかざるを得なかった。
私はあえて伯母上の真紅のドレスを身にまとい、王城に向かった。
伯母上が娘時代に気に入り愛用していたものを、昨夜中に仕立て直させたのであった。
私が年頃になって譲ってくださったものであったが、言うまでもなく、女物の装いには流行というものがある。
真紅という派手な原色使いも、私を気乗りさせない理由だった。
私は薄黄色や薄緑を好んだ。
「あなたも真紅が似合うのに」
私がこれを着ようとしないのを知って、伯母上はそうおっしゃったが。
確かに外見は似ているから、そうかもしれぬが。
大輪の真紅のバラの如き美しさは中身を伴ってこそ、
――幸せボケできるほどに相手の愛が信じられるヴィクトリア伯母上ならばこそ、
――愛など信じぬ私とは異なる。
ただ、こたびばかりは、
――今は亡き、とはいえ、やはり王妃の座を勝ち得て、私に代をつないだ伯母上、
――その力を借りたく想ったのだ。
伯母上は私と異なり、国王を愛しておった。
度々、のろけを聞かされた。
その愛する余り、良く分からぬ国王のサプライズに、あえて飛び上がって喜んでみせるとのことであった。
相手の好みに合わせて、よそおうこと、
――それくらいの相手に対する思いやりを、私も持つべきだとのたまわった。
ゆえに、もっぱら聞かされるのろけは国王がしてくれるサプライズであった。
いきなりの賜り物であったり、
いきなりのキス、
まあ、更にその後のいろいろ、色んな色事だった。
婚前の姪に話すことではあるまいとは、今でも想う。
心ここに在らずの顔で私に話してくれた。
あの時は、幸せボケのアホウ伯母上だなと正直想ったが。
その幸せそうな彼女が生きておれば・・・・・・。
亡くした者の重みは、亡くなってからでしか分からぬ、
――良く聞くこのことに、
――小さい頃から賢いともてはやされた私自身が身につまされようとは。
私自身のさかしらさを運命が笑っておるようであったが。
ただ、こたび、その運命を逆転すべく私は手を打ったのだ。
ここで終わりではない。
私は己に言い聞かせた。
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